ガンバにまた10代新星FW唐山翔自。ボールを引き寄せる嗅覚と大黒将志。

数々の名ストライカーを輩出してきたブラジルのサッカー界にはこんな決まり文句がある。

ボールは点取り屋を引き寄せる――。

8月12日のルヴァンカップ、湘南ベルマーレ戦がトップチームのデビュー戦となったガンバ大阪の唐山翔自は、生粋のストライカーであることを自ら証明して見せた。

ガンバ大阪ユースに所属していた昨年、高校2年生にして既にJ3リーグを戦い、9月1日の福島ユナイテッドFC戦ではJリーグ最年少となる16歳345日でのハットトリックを達成。そのポテンシャルの一端を随所で見せつけていた唐山は、今季飛び級でトップチームに昇格した。

「点を取ってこい」

宮本恒靖監督にこうハッパをかけられてトップデビュー戦に臨むと、開始早々の12分、山本悠樹のFKをファーで合わせて先制点を叩き出す。

あたかも、ボール自身が唐山を引き寄せたかのようなワンシーンだが、「悠樹君のインスイングキックは本当に質が高いので、あそこに抜けてくるというのはゴール前に入る前から思っていた。後はマークの人を外してフリーで打つことだけを考えて入りました」と狙い通りの動き出しだったと唐山は胸を張った。

宮本監督にとっても嬉しい誤算。
わずか12分でデビュー弾を叩き込んだ若き俊英の活躍は、ジュニアユース時代に1年だけ指導した宮本監督にとって想定内だったが、嬉しい誤算も待っていた。

「やはり点が取れるところに入ってくるなという風に見て思いましたけど、2点取るとは思っていなかった。1点ぐらいは取るなと思っていたんですけど、2点というのは想定外と言うか……」

一度は同点に追いつかれたガンバ大阪だったが39分、完全に湘南を崩し切ると高木大輔のラストパスから利き足でない左足で冷静にゴールネットを揺さぶり、決勝ゴールをゲットするのだ。

シュート2本で2得点、持ってるな。
シュート2本で2得点という最高のデビュー戦に「自分は持ってるなと思いました」と今時の若者らしい率直な言葉を口にした唐山だったが、持っているのは決して運ではない。未来のエース候補は、才能に加えて努力する力を持ち合わせているのである。

ガンバ大阪U-23でJ3リーグに初出場した昨年7月28日の長野パルセイロ戦でもデビュー弾を決めている唐山は、「点を決めないと大好きなラーメンも美味しくない」とゴールへの執着心を見せ続けてきた。この1年間、ひたすら心と技を磨き続けてきたのだ。

湘南戦をテレビの前で見守ったガンバ大阪U-23の指揮官、森下仁志監督はキッパリと言い切った。

「思うようにいかないこともあって涙を流しながら踏ん張って、練習している姿を僕は見ている。そういう毎日があるからこそ、彼のところにああやってボールが来るわけだし、『持っている』と言える人間になれるんです。ただ、何もしないで今みたいな状況になっている訳ではないですから」

点が取れず試合中に涙が出たことも。
チームが始動したばかりの今年1月中旬のことだ。関西大学との練習試合に敗れ、無得点に終わった唐山は「俺は、大学生相手にも点が取れへんのかと思うと試合中にちょっと涙が出てきた」と悔しさを噛み締めていた。

もちろん試合後に待っていたのは森下監督からの愛の檄。指揮官と1対1で向かい合ってメンタル面のアドバイスを受けるなど、熱血漢の指導で心身をタフに磨き上げて来た。

J3リーグでは10試合で計8得点。数字だけを見れば及第点に見えるが、唐山自身は冷静に自らの立ち位置を見つめていたのが印象的だ。

「得点以外の部分を見たら平均以下のプレーやし、周りの選手が良かったら点を取れるというのではダメ」

昨季J3で実感した大人の駆け引き。
ユース世代ではずば抜けた存在でありながらも、プロのスピードやフィジカルの強さに成長が頭打ちとなるルーキーは珍しくないが、唐山にとって大きかったのは昨年、2種登録の立場ではありながらも、そうしてJ3を経験できたことである。

昨季のJ3リーグでは終盤、ラーメンが美味しくない日々を味わった唐山だが、当時こんな感謝を口にしていた。

「J3も特にCBにはベテランが多いじゃないですか。その経験値はユースの選手よりも高いし、フィジカルももちろんですけど、駆け引きが全然違う。CBとCFはユースとは比べ物にならないので、本当にいい経験になっています」

自身もガンバ大阪U-23の元指揮官としてJ3リーグのレベルを知る宮本監督も言う。

「早くに大人の選手と対戦して何が足りないのか、何が通用するのか、というのを整理する時間になったと思う」

肩書きこそアマチュアだが、プロサッカーの洗礼をいち早く浴びていた17歳は1月の始動時から、フィジカルの強化にも取り組んできた。とにかく練習の虫である。

「予想より早く成長してきている」

宮本監督もまた、負けず嫌いな唐山の素顔を知る1人である。

「勝敗に対して負けず嫌いというか、悔し涙を流すこともあったし、ピュアなところもあった。とにかくサッカーが好きで練習時間が終わっても常にボールを触って、ドリブルの練習をしたりもしていましたしね」

宇佐美に似たサッカー小僧気質。
プレースタイルは異なるものの、唐山に感じるのは飛び級の先輩に当たる宇佐美貴史に似たサッカー小僧の気質である。

「僕は天才じゃない」と公言する宇佐美は抜群のキック精度を小学生時代からの努力で磨き上げてきたが、唐山の得点感覚もまた、単なる才能に頼ったものではなかった。

「2点目は自分の中でもすごく気に入っていて、(高木)大輔くんから来たボールをちょっと相手が触ってほんのちょっとズレて、バウンドも変わった中でしっかりとボールに足を当てることができた。自分の中では結構難しいシュートだと思っているので練習の賜物かなと思います」

湘南戦の2点目を自画自賛したのには訳がある。唐山はクラブ練習場に設置されているシューティングボードに至近距離から強いキックを繰り出し、その跳ね返りをボード近くに設置したネットに正確に蹴り込む練習を日課にして来たのだ。

大黒、アデミウソンの動きに学ぶ。
小学生の頃、やはりサッカーをしていた兄とともに壁にボールを蹴り、言わば遊びの中で生み出したメニューだが、唐山の目は真剣だ。

「技術の練習でもあるけど、目を慣らす練習でもあるんです」

ペナルティエリア内で問われるのは「常在戦場」の心構え。いわゆる「QBK」は許されないことを唐山は知っている。そうしてフィニッシャーとしての技術を磨く一方で、唐山は今、プレーの幅を広げる作業に取り組んでいる。

コロナ禍の影響でチームが活動の休止を余儀なくされた時期に、森下監督の勧めで繰り返し見た映像はガンバ大阪ユースの先輩にあたる大黒将志の動き出しだった。

「ジュニアユース時代はそれほど裏抜けに特化していたわけではない」と宮本監督が語るように、唐山は本来、オフ・ザ・ボールだけにこだわるスタイルではない。ユース時代はガブリエウ・ジェズスの動き出しやルイス・スアレスのポジショニングを参考にし、最近は身近なブラジル人FWを生きた教材にしているという。

「アデミウソン選手はやっぱり凄い。攻撃の作りに関わるところとか、縦パスが入って、相手を背負った時に絶対に相手の逆をつくところとか、凄く上手いなって。日頃からプレー動画集を見ています」

「点を決めたらOKみたいなところも」
6月に開幕したJ3リーグでは開幕戦こそゴールを決めたものの、その後3試合は無得点である。

「勝てていない時期の試合を分析したら、前で張っているだけではボールは来ないし、自分が1回、攻撃の作りに関わって味方がフリーになったら、また動き出すという新しい形もやっていかへんと、なかなか点を取るのは難しいなと思っていたんです」

アデミウソンに目を向けたきっかけをこう明かした唐山の柔軟性と謙虚さは魅力の1つだが、同時にストライカーならではの矜持にブレはない。

「FWは他のポジションとは違って凄く特殊。点を決めたらOKみたいなところもありますから」

だからこそ、湘南戦で自己採点を問われた少年は、ためらうことなくこう言い切った。

「点を取って勝ったんで10点(満点)で」

ボールは唐山を引き寄せる――。これから、何度もこんなシーンが待っているに違いない。

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