ガンバの闘う技巧派・小野裕二。宇佐美とも輝くプラチナ&いぶし銀。
今年1月、一部のサポーターも招かれた新体制発表会見で、小野裕二が引き締まった表情で口にした言葉に嘘はなかった。
「チームが勝つためにプレーするところを、ファン、サポーターの方にたくさん見てもらいたい」
例年スロースターターの傾向があるガンバ大阪が今季は好スタートを切っている。
川崎フロンターレと対戦した8月1日の首位攻防戦では前半、互角以上の戦いを見せながらも0対1で惜敗。2年ぶりの5連勝は逃したものの、3年目の宮本ガンバは一味違うことを十分にアピールしてみせたのだ。
宮本監督は名指しこそしないが……。
4連勝を支えていたのは、クリーンシート2試合を含め、4試合でわずか2失点の堅守である。
三浦弦太がディフェンスリーダーとして成長したこと、韓国代表キャプテンの肩書に相応しいプレーを見せはじめているキム・ヨングォンの安定感も見逃せないが、宮本恒靖監督の分析はこうだ。
「ただ上手いだけのチーム、ただ上手いだけの選手になってほしくない。戦える選手、結果を出せる選手、結果を出せるチームになっていかないといけないという話を選手にしている中で、そういったものが試合に現れて来ている」
そして、名指しこそしなかったものの「新しく入ってきた選手がそういうものをピッチ上で出してくれている」と付け加えることも忘れなかった。
「新しく入ってきた選手」とは言うまでもなく、今季の補強の目玉としてサガン鳥栖から加わった小野のことだ。
一瞬一瞬のプレーにかける意思。
横浜F・マリノスではルーキーながら背番号10を託され、俗に言う「プラチナ世代」の1人として将来を嘱望されてきた小野だったが、ガンバ大阪ではプラチナというよりは、いぶし銀のプレースタイルでチームを支えはじめている。
「守備で体を張ったり、攻撃面でも難しいボールにヘディングで飛び込んでいけるところとか、一瞬一瞬のプレーにかけるところはチームに伝播してほしいし、伝播するところもある」(宮本監督)
そんな小野のファイターぶりを象徴するのが、7月8日に行われた名古屋グランパス戦である。
その4日前に行われた大阪ダービーで待望の移籍後初出場を飾っていた小野だったが、終了間際、片山瑛一との空中戦で顔面を強打。左眼窩底骨折との診断結果がリリースされたばかりだった。しかし、名古屋戦のピッチに小野はいた。
途中でフェイスガードを外しても。
入場の際にはフェイスガードをつけていた背番号11は、キックオフ直前に「間接視野がないので、ボールを蹴る時とかトラップする時、ドリブルする時にちょっと支障が出るかなと自分の中で判断して外した」。
フェイスガードなしでピッチに立つと、開始からわずか5秒後、負傷箇所を全く恐れることなく、三浦のロングフィードに対してヘディングでの競り合いを敢行した。
現役時代、「バットマン」スタイルでのプレー経験を持つ指揮官も「気持ちの強さを出してくれる選手だけど、現場を預かる身としては再受傷というのは心配なところもあった」と苦笑いしたが、小野本人はどこ吹く風で、こう言い切っていた。
「25年間ぐらいサッカーをやっていて、ここにボールとか頭が当たることはあまりなくて、確率的に当たらないかなと思った」
宇佐美も「小野効果」を証言する。
左目の周りはまだ内出血したままだったが、そのプレーに迷いや恐れは一切なし――。そんな小野の姿勢は自ずとチーム全体のプレーの強度を上げていくのだ。
「小野効果」を証言するのはプラチナ世代の僚友、宇佐美貴史である。
「やっぱり彼はメンタリティでチームにプラスアルファを落とし込んでくれている。例えば、激しくプレーに行った後、表情に出すというようなボディーランゲージに裕二のメンタリティが出ているし、それがやっぱり僕らにも観ている人にも伝わる。今までのガンバにはいなかったタイプだし、試合中は本当に頼りになる」
過去、強かった時代のガンバ大阪には常にピッチの中で鼓舞する「戦士」がいた。
山口智や明神智和、今野泰幸らはその代表だが宇佐美が「今までいなかった」と評するのは小野が技巧派のファイターであるということだ。
オン・ザ・ボールに長けた選手が揃うガンバ大阪の攻撃陣で小野が意識するのは潤滑油としての役割だ。小野は言う。
「ガンバには技術の高い選手がたくさんいるけど、それだけで攻撃は回らない。なるべく他の選手のポジショニングをみて、ここに必要かなというところに動くように意識している」
プラチナ本来のきらめきも。
インサイドハーフとして戦術理解度の高さを見せる小野は、プラチナが放つ本来のきらめきも、もちろんまだ失っていない。7月26日のヴィッセル神戸戦で見せつけたとおりだ。
スコアレスで試合が拮抗していた後半17分、右サイドを攻め上がった高尾瑠のパスをペナルティエリア内で合わせて待望の移籍後初ゴール。宇佐美が神戸DFを引き連れたことで空いたスペースを見逃さなかった戦術眼は見事だった。
2人のプラチナ世代が、阿吽の呼吸。
「貴史が相手をつってくれて、僕がフリーになれたところがあの得点を生んだかな」と小野は控え目に喜んだが、宇佐美は「志向しているサッカーとか哲学的なところでも裕二とは似通った部分があるし、プレー面ではなにも言わずに分かり合える」と胸を張った。
欧州で挫折を経験した2人のプラチナ世代が、ピッチ内で阿吽の呼吸を見せ始めているガンバ大阪。
「僕自身、ガンバに来るに当たって本当にタイトルを取るために来たし、試合を勝たせられるようなゴールをたくさん、決めたい」と神戸戦後に改めて、小野は秘めた思いを口にした。
次に見せるのは、いぶし銀の渋みか、プラチナの輝きか――。戦う技巧派が、その本領を発揮し始めた。