敏腕代理人が語る日本人選手4「サッカーマネーのリアルな裏側」

日本からは現在、多くの選手が世界へと飛び出している。時代の流れとともに、その状況は刻々と変化していっている。現在の日本人選手は、世界でどんな立ち位置にあるのか? 稲本潤一と浅野拓磨をともにアーセナルへなど、数多くの選手をビッグクラブを含む欧州へと送り出してきた代理人の株式会社ジェブエンターテイメントの田邊伸明氏に、話を聞いた。

■選手を「喜んで送り出す」日本の風潮
「ヨーロッパの人から見れば、日本のサッカーの鎖国って、最近まで存在したんですよ」。グローバルなサッカーの世界において、日本のサッカーと日本人選手が理解されていなかった状況について、田邊氏はそう語る。

一時期は、中田英寿氏や香川真司(現レアル・サラゴサ=スペイン)の活躍で日本人選手獲得が流行した。だが今では、機敏性などのストロングポイントとともに「いつまでたっても(その国の)言葉を覚えないとか、人の輪の中に入っていかないとか、自分から積極的に外に出てその国を知ろうとしない」(田邊氏)という一般的な日本人の国民性が、“弱み”としても認識されるようになっているという。

マイナスのイメージが先行するようではよろしくないが、むしろ日本人選手について欧州では以前よりも確実に理解が進んでいる、ととらえたほうがいいかもしれない。適正な評価を下されるようになっているのは、悪いことではない。言い方を換えれば、日本がようやく世界のサッカー界に正しく組み込まれた、ということでもある。

そうなることで、日本への欧州の見方も変化してきた。また、同じことが日本のサッカークラブにも言えるようだ。

田邊氏が代理人を務める稲本潤一(現SC相模原)が、2001年にガンバ大阪からアーセナル(イングランド)に期限付きながらも移籍する際、G大阪は何も注文をつけることはなかったという。

「レンタル料が安いとか高いとか、1年後にもしもアーセナルが(完全移籍に移行して)買い取りたいとなった時にいくらにするという話もない。ガンバにとっても、経験がないことですからね。こちらが『いいんですか!?』と言いたいくらい、すんなりOKが出ました」

G大阪としては、稲本のような好例が出ることで選手育成への評価が高まり、さらに優秀な選手が集まるようになる、との目論見もあったという。ただし、圧倒的に選手の移籍という「ビジネス」の経験値が不足していたことは否めない。「勇躍」に、周囲も含めて選手を喜んで送り出すという側面もあっただろう。

そうした風潮は今も残っている。田邊氏が語る。

「日本のクラブが、あまり(要求する移籍金を)高く言わない。それはどうなんだろうと僕も思いますが、行きたいという選手を止められないと思っているのでしょう」

■日本のクラブが狙う新たなビジネススタイル
田邊氏によれば、日本から欧州へと渡る際の移籍金は、1億円から1億5000万円くらいが相場になっているという。ただし、移籍金とは選手の能力や将来性などによってそれぞれ決まるものである。ここでいう相場とは、欧州のクラブが考える、日本のクラブが納得する金額だということだろう。

「日本の選手の違約金の相場観というのが、イタリアと似ているんです。イタリアの移籍市場は、ものすごく独特です。国内移籍だと5億円を要求するのに、他国に行く場合はそれほど高い移籍金にならない。同じような価値のギャップとでも言うべきものが、日本にもあります」

だが日本のクラブも、ただ言い値に首肯しているばかりではない。日本のクラブは、“間接的”な移籍金狙いにシフトしているのだという。

「イタリアのように、国外へ行く時の移籍金は比較的高くない。でも、次のクラブにステップアップする時は、日本のクラブにお金を分配してくださいね、という方式です。そういうケースが多くなっていて、日本のクラブはそうしたことも含めてある程度、納得しているところがあります」

優秀な若手を育てたり、成長を促して輩出したクラブには、トレーニングコンペンセーションや連帯貢献金が支払われる。そういった「先を見越した」ビジネスの仕方に切り替えているのだという。

選手が欧州で自身の価値を高めて、さらに大きなクラブへ移籍するには、まずはヨーロッパサッカーという名のショーケースに入るしかない。「日本のクラブも、そういうことが分かってきていると思います」(田邊氏)という事情があるだけに、あえて無理な要求をせずに、ヨーロッパへと選手を送り出している側面もあるだろう。

また、移籍に関わる代理人としては、選手を送り出す側のクラブへの貢献も強く意識している、と田邊氏は語る。

「この20年ほどでエージェントのライセンスの変化もあり、今はクラブにも納得してもらえるような移籍をする時代だと思っています。私たちは選手のエージェントだから、選手がとにかくヨーロッパに行きたいと言えば、最終的にはクラブの意見を押し切ってでも行かせなければいけないという立場ですが、クラブにも納得してもらうようにすることに、すごく力を注いでいるんです。

だからクラブとは、移籍に関する一定の取り決めを選手が納得できる形でしますが、金銭面や契約の内容については、その取り決め以上のものをクラブに提供できるよう、会社全体として滅茶苦茶頑張っています。浅野(拓磨、サンフレッチェ広島→アーセナル=イングランド)と北川(航也、清水エスパルス→ラピド・ウィーン=オーストリア)については、クラブと取り決めていたものをはるかに上回る条件で移籍しています」

浅野が広島に残した移籍金は、おそらく移籍時に日本のクラブに残した金額で過去最高であるはずだと、田邊氏は語る。5億円から6億円との推測に、田邊氏は「まあ、ご想像にお任せします」と答えた。

クライアントを安い金額で国外へと移籍させないことについて、「昔と違って独自の国内ルールもないので、会社全体としてそれをすごく意識しているというか、気をつけています」と田邊氏は語る。安易な移籍を成立させてしまっては、日本サッカー界全体の価値を下げることにつながりかねない。

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