今日J開幕。補強に成功したチームはどこだ!
2020シーズンの明治安田生命J1リーグが、フライデーナイトJリーグとして21日に行われる湘南ベルマーレ対浦和レッズ(Shonan BMWスタジアム平塚)から幕を開ける。
昨シーズンは時間の経過とともに、標榜してきたアタッキングフットボールが開花。最後は7連勝でフィニッシュするなど、無双の強さを身にまとった横浜F・マリノスが15年ぶり4度目の美酒に酔った。各クラブが補強に走るオフも、スピーディーかつ的確に動いたのがマリノスだった。
J1を制したマリノスには、今年から順に5億5000万円、5億円、5億円と3年間で総額15億5000万円の理念強化配分金がJリーグから支給される。使途を問われた横浜マリノス株式会社の黒澤良二代表取締役社長は、これから検討すると断った上で、こんなビジョンを明かしていた。
「できるだけ有効に使いたいというか、チームの強化にあてた方がいいと考えています」
資金をもとにまず着手したのが優勝に貢献した2人の外国籍選手、センターバックのチアゴ・マルチンスと左サイドバックのティーラトンを、期限付き移籍から完全移籍へと切り替える補強だった。前者はブラジルのパルメイラスから2018年夏に、後者はタイのムアントン・ユナイテッドFCから昨シーズンにそれぞれ加入し、特にマルチンスは昨シーズンのベストイレブンにも選出されていた。
主力全員を残留させた上で、期限付き移籍先の大分トリニータで10ゴールをマークし、日本代表にも選出されたFWオナイウ阿道を浦和レッズから獲得。マリノスのアカデミー出身で、2010年夏以降は4つのクラブでプレーしていたMF水沼宏太も約9年半ぶりに復帰した。
オナイウに関しては、6年ぶりに挑むAFCチャンピオンズリーグ(ACL)をにらんだ補強でもある。外国籍選手の登録・ベンチ入り・出場枠がすべて「3」のACLへ、マリノスはチアゴ・マルチンス、ティーラトン、MVPの仲川輝人と得点王を分け合ったMFマルコス・ジュニオールを登録。合計で19ゴールをあげたエジガル・ジュニオ、エリキの両FWを外している。
J1開幕に先駆けてグループリーグの2試合を終え、連勝発進したACLで1トップを拝命したのがオナイウだった。19日のシドニーFC(オーストラリア)戦では、先制点を含めた2得点をマーク。3年目の指揮を執るアンジェ・ポステコグルー監督の独特の戦術にフィットしてくれば、闘志あふれるプレーで仲間を鼓舞する水沼とともに、J1連覇へ向けても大きな上積みになるはずだ。
首位を快走しながら9月以降の9試合で3勝3分け3敗と失速し、2位でリーグ戦初優勝を逃したFC東京は、シーズン途中に移籍したMF久保建英(マジョルカ)の穴を最後まで埋められなかった。加えて、9ゴールをあげて日本代表にも復帰したFW永井謙佑が右肩を脱臼。昨年12月に手術を受けるも全治までに約4カ月を要すると診断され、大きく出遅れることが確定している。
必然的にオフの補強は攻撃陣が中心となり、鹿島アントラーズからレアンドロを期限付き移籍で、J2に降格したジュビロ磐田からはアダイウトンを獲得。過去2シーズンで27ゴールをあげている絶対的エース、ディエゴ・オリヴェイラを加えたブラジル人トリオの破壊力を3トップで生かすために、長谷川健太監督はシステムを従来の[4-4-2]から[4-3-3]へ変えている。
昨シーズンのFC東京の総失点29は、サンフレッチェ広島と並んでJ1で2番目に少なかった。元日本代表のGK林彰洋やDF森重真人を中心とする堅守は健在なだけに、ブラジル人トリオが機能し、永井の復帰とともにさらなるオプションが加われば、これまでとは違ったFC東京が見られるだろう。
一時は首位に立ちながらも失速し、3位に終わったアントラーズは後半戦に入ってけが人の連鎖に泣いた。特に戦線離脱者が続出した左右のサイドバックを中心としたオフの補強は、クラブの現状に見合った戦略であり、J1勢のなかで最も成功したクラブと言っていい。
左サイドバックは他のクラブとの争奪戦の末に永戸勝也をベガルタ仙台から、東京五輪世代の杉岡大暉をベルマーレから獲得。右サイドバックには昨シーズンの前半戦でマリノスのレギュラーを担った広瀬陸斗を加え、さらにセンターバックとしてリオ五輪代表候補の奈良竜樹を川崎フロンターレから、攻撃の万能プレーヤーとして和泉竜司を名古屋グランパスから獲得している。
ヴィッセル神戸に屈した元日の天皇杯決勝をもって大岩剛監督が退任。バトンを引き継いだブラジル人で、現役時代は柏レイソルでプレーした経験をもつザーゴ新監督が「やるべきことが多すぎて」と嬉しい悲鳴をあげているように、新メンバーを加えたチームはまだフィットしていない。
1月28日にはACLプレーオフでメルボルン・ビクトリー(オーストラリア)に敗れ、本大会に進出できない屈辱も味わわされた。ただ、逆の見方をすればJ1リーグとACLを並行して戦う過密日程から解放されたことで前者に集中し、戦いながらチームを熟成させることもできる。
1996年から強化の最高責任者を務める鈴木満取締役フットボールダイレクターは、出遅れる事態も織り込みながら「秋口から勝負をかけられる体制になれば」と、これまでとは異なる青写真を描く。もちろん上位戦線に食らいつきながら、という条件がついていることは言うまでもない。
天皇杯を制してクラブの悲願でもあった初タイトルを獲得したヴィッセルは、これまでの大型補強を封印。即戦力の獲得を、J1通算で46ゴールをあげているFWドウグラスだけにとどめた。天皇杯制覇を置き土産に引退した元スペイン代表FWダビド・ビジャの穴を埋める補強で、32歳のブラジル人ストライカーは開幕前の公式戦ですでに2ゴールをマークしている。
大きな動きを見せなかったのは、昨年6月に就任したドイツ人のトルステン・フィンク監督の方針でもある。昨夏にベルギー代表DFトーマス・フェルマーレン(FCバルセロナ)、GK飯倉大樹(マリノス)、そしてDF酒井高徳(ハンブルガーSV)が加入。課題だった失点の多さが解消され、右肩上がりの軌跡へと転じたなかで天皇杯、FUJI XEROX SUPER CUPを制した流れが重視された。
初めて参戦しているACLでもグループリーグで連勝をマーク。バルセロナおよびスペイン代表で一時代を築いた司令塔アンドレス・イニエスタも好調を維持し、昨シーズンの終盤戦から続く公式戦連勝を「8」に伸ばしたなかで迎えるリーグ戦でも、決して侮れない存在になるはずだ。
大穴的な存在ではロシアワールドカップ代表のDF昌子源を、トゥールーズFC(フランス)から電撃的に獲得したガンバ大阪となるだろうか。前線ではストライカー役に徹する宇佐美貴史が昨シーズンの終盤から大きな存在感を放っているだけに、右足首痛を完治させた昌子が最終ラインに復帰し、課題でもある守備が安定してくれば、上位陣に食い込む化学反応が起きる可能性は十分にある。
同じ図式はガイナーレ鳥取でJ3の、アルビレックス新潟ではJ2の得点王を獲得してきたFWレオナルドが加入したレッズにもあてはまる。開幕に先駆けて16日に行われた、ベガルタとのYBCルヴァンカップ予選リーグでも2ゴールをゲット。興梠慎三に依存しきっていた昨シーズンの攻撃陣に新たな脅威が加われば、底力があるチームだけに非常に面白い存在になるかもしれない。
補強に対して最初の答えが出る開幕節は3日間にわたって開催され、ここまでにあげたレッズ以外の5チームはすべて23日の日曜日に登場。マリノスはホームでガンバといきなり激突し、FC東京とアントラーズはともにアウェイで清水エスパルス、サンフレッチェとそれぞれ対峙。ヴィッセルはホームに昇格組の横浜FCを迎えるなかで、12月5日まで続く長丁場の戦いの火ぶたが切られる。