複数クラブが新システムを導入。本命、対抗…大物が加入したサプライズ候補は?【記者のJ1優勝予想】
いよいよ21日に開幕が迫る2020シーズンの明治安田生命J1リーグ。昨シーズンは横浜F・マリノスの優勝で閉幕したが、新シーズンはどのクラブが覇者として躍り出るのだろうか。『Goal』では、広く国内外のサッカーを取材する河治良幸氏に優勝予想をお願いした。
本命:セレッソ大阪
[昨季成績]
J1:5位
天皇杯:ベスト16
ACL:不出場
ルヴァン杯:POステージ敗退
■最少失点を土台に得点数を伸ばせるか
昨シーズンはミゲル・アンヘル・ロティーナ監督が就任して1年目ながら徐々にチームが向上し、一時は首位に迫るパフォーマンスを見せた。ギリギリでAFCチャンピオンズリーグ(ACL)を逃したが、リーグ制覇を見据えればアドバンテージでもある。
目立った主力の退団はMF水沼宏太、MFソウザぐらい。水沼の後釜にはJ2でブレイクしたMF坂本達裕(←モンテディオ山形)、ソウザの代わりにはブラジルで実績豊富なMFルーカス・ミネイロ(←シャペコエンセ/ブラジル)を獲得し、昨シーズンは鹿島で活躍したDF小池裕太(←シント=トロイデン/ベルギー)をはじめFW豊川雄太(←オイペン/ベルギー)などロティーナ戦術にフィットしそうなタレントが加入した。
リーグ最少失点のディフェンス陣は健在で、課題は得点力だが長期離脱していたFW都倉賢が復帰。2年目のブルーノ・メンデスが戦術的にフィットして得点数を伸ばせれば、十分タイトル争いに食い込める。期待の新星であるMF西川潤をはじめU-19日本代表の主力を張るMF松本凪生など若手にもタレントが揃い、後半戦からの推進力になりうる。
有力:川崎フロンターレ
[昨季成績]
J1:4位
天皇杯:ベスト16
ACL:グループ敗退
ルヴァン杯:優勝
■ポジショナルプレーを導入
2018、2019のJリーグ連覇など覇権を握ってきた川崎Fだが、昨シーズンはJリーグYBCルヴァンカップこそ優勝したものの、ACLで惨敗。さらに第33節の横浜F・マリノス戦で1-4の惨敗を喫し、3連覇を逃した。
就任4年目となる鬼木達監督は欧州でスタンダートになってきている“ポジショナルプレー”の要素を取り入れた4-3-3を採用し、合宿から構築を進めてきた。大勝したルヴァン杯の清水エスパルス戦後、選手たちはミスの多さや課題を口にしたが、前向きにも捉えており、シーズンで試合後を重ねるごとに向上していくであろう手応えを掴んでいるようだ。
とはいえ、“ポジショナルプレー”を取り入れる下地として、局面の崩しでショートパスや細かいコンビネーションを生かすこれまでのスタイルは色濃く残している。欧州で同じ4-3-3を用いるチームを参考にはするが、真似ではなく新たな“川崎スタイル”を築いていく意気込みは強い。
新戦力はDF山根視来(←湘南ベルマーレ)など最小限だが、人を変えずにスタイルを変えるというプランは今のところ順調。あとはMF中村憲剛が開幕に間に合わない状況で、MF阿部浩之が移籍した影響も懸念されるゲームコントロールの部分をMF脇坂泰斗、MF田中碧などの成長で埋められるかがリーグタイトル奪還のテーマになりそうだ。
対抗:横浜F・マリノス
[昨季成績]
J1:優勝
天皇杯:ベスト16
ACL:不出場
ルヴァン杯:グループ敗退
■ACLに伴う過密日程が不安材料
防衛王者として臨む新シーズン。純粋な攻撃力では間違いなくリーグ随一で、連覇に足るポテンシャルを備えていることは間違いない。ただ、ほとんどの相手が引いてカウンターを狙うしかなかった昨シーズンから、主導権を容易に取らせない戦い方をしてくるケースが増えそうだ。
富士ゼロックス・スーパーカップでは天皇杯王者のヴィッセル神戸が自由にボールを回させない守備、高い位置から守備をはめさせない立ち位置を意識した攻撃で横浜FMを苦しめ、PK戦の末にシーズン最初のタイトルを獲得した。C大阪はもちろん、ハイプレスに磨きをかけるガンバ大阪、新たに“ポジショナルプレー”の要素を導入している川崎Fや浦和レッズも簡単には横浜FMに主導権を握らせないはず。「何かを変える必要はない」とアンジェ・ポステコグルー監督は語るが、そうしたライバルを上回っていけるかは今シーズンの大きな見どころだ。
ただし、シーズンが進むに連れて負担になっていくのは6年ぶりの挑戦となるACLだ。2チーム分のチームを回せる戦力を有しているが、完全なターンオーバーができても試合のプランニングなどACL直後のリーグ戦は難しい。“二足のわらじ”を履くことに慣れていない横浜FMがどう乗り切るか。ACLでの躍進に対する期待は反面、不安材料でもある。
サプライズ:ガンバ大阪
[昨季成績]
J1:7位
天皇杯:3回戦敗退
ACL:不出場
ルヴァン杯:ベスト4
■優勝から下位低迷までありうる
昨季途中に加入したFW宇佐美貴史、MF井手口陽介が開幕から起用できることに加え、DF新里亮(←ジュビロ磐田)、FW小野裕二(←サガン鳥栖)と計算できる新戦力、さらにDF昌子源(←トゥールーズ/フランス)が加入。韓国代表DFキム・ヨングォン、日本代表DF三浦弦太、昌子が並ぶ3バックはJ最強レベルにもなりうるが、負傷からの復帰を目指す昌子は“デビュー”がしばらく先になる可能性も。新里、DF菅沼駿哉らのアピールが選手層のアップに繋がりそうだ。
また、宮本恒靖監督はより主導権を握るために高い位置からのディフェンスを強化した。相手GKにまでプレッシャーをかける守備は後ろからパスをつなぐチームが多いJ1で猛威を振るうかもしれない。
ただ、その戦い方を90分続けるのは不可能であり、メリハリが大事になってくるだろう。鍵を握るのは引く手数多ながら残留を決断したMF小野瀬康介だ。FWアデミウソンがオフからコンディションを戻しきれていない事情もあるだろうが、従来の右ウィングバックだけでなく2トップでも起用され、攻守にわたりチームの機能性を高めている。
一方でG大阪の課題は試合ごとにパフォーマンスの振り幅が大きいこと。それを克服するための守備のテコ入れでもあるが、優勝から下位低迷までありうるG大阪の成績を左右するその要素は、Jリーグの勢力図にも大きく関わってくる。
大穴:FC東京&鹿島アントラーズ
[昨季成績:FC東京]J1:2位、天皇杯:3回戦敗退、ACL:不出場、ルヴァン杯:ベスト8
[昨季成績:鹿島]J1:3位、天皇杯:準優勝、ACL:ベスト8、ルヴァン杯:ベスト4
■FC東京:強力3トップが看板の新布陣
昨シーズン2位のFC東京は課題を得点力に定めて、堅守速攻をベースとした4-4-2から、より前に厚みをかけた4-3-3に基本システムを変更した。サイドを起点としながら、縦に速い攻撃でゴール前に迫力を出して行くスタイルの看板はエースFWディエゴ・オリヴェイラにMFアダイウトン(←ジュビロ磐田)、MFレアンドロ(←鹿島アントラーズ)を加えた強力な3トップだ。
前線にはケガから回復途上のFW永井謙佑に加えてU-23日本代表のFW田川亨介、韓国代表FWナ・サンホ、J3得点王のFW原大智などタレントを揃える。ACLのパース・グローリー戦でデビューした大卒ルーキーのMF紺野和也も面白い存在だが、守備でのハードワークも厭わないブラジル人3トップが攻撃を引っ張って行くことになりそうだ。ただ、ACLの負担や東京五輪でホームの味の素スタジアムが使用されるなど、環境面での不利が紙一重のJ1戦線にどう影響してくるかは気になるところ。またシーズン後半に失速しやすい傾向をどう克服するかも見どころだ。
■鹿島:相手を“押し込む”戦いにシフト
アントニオ・カルロス・ザーゴ新監督を迎えた鹿島はACLプレーオフに敗れて本戦を逃したものの、相手陣内で押し込むための新機軸を導入しており、フレッシュな空気がチームに流れているようだ。高い位置からボールを奪いに行くディフェンスもただハードワークするだけでなく、立ち位置を意識した段階的なプレッシャーのかけ方など、良くも悪くも攻守の切り替えや運動量に頼りがちだった組織に変化が見られている。
ディフェンスラインを高い位置まで上げての組み立てもしかりで、欧州サッカーの知識も豊富なザーゴ監督の指導の成果が早くも表れている。ただ、ACLのプレーオフ敗退に続き、ルヴァン杯の初戦でも名古屋グランパスに敗北。“常勝軍団”を支え続けてきたファンサポーターから厳しい声が早くも出てきており、名門の再建は一筋縄ではいかなさそうだ。ただ、1つきっかけを作れば昨シーズンのアシスト王であるDF永戸勝也(←ベガルタ仙台)などを加えた戦力は優勝できるポテンシャルを備えており、苦しい前半戦を乗り切れば、東京五輪の中断期間を経て上昇カーブを描く可能性はある。
■そのほかの有力候補
さらにミハイロ・ペトロヴィッチ監督が継続路線を推し進める北海道コンサドーレ札幌、トルステン・フィンク監督のもとで良質な外国人選手と日本人選手が融合しているヴィッセル神戸、“優勝請負人”のMF阿部浩之を獲得し、FWマテウス、FW前田直輝、FW相馬勇紀などサイドアタッカーが充実の名古屋グランパス、戦術的な安定感と組織的な一体感が魅力のサンフレッチェ広島、攻守のバランスが改善し、J2得点王のFWレオナルドの早期フィット、FW杉本健勇の復活などプラス材料の目立つ浦和レッズなども優勝のポテンシャルは秘めている。