裏を制する者がJリーグを制した!?データが示した2019戦術トレンド。

裏を制する者がJを制す。

ざっくり言うと、そんなシーズンだった。2019年のJ1リーグのことだ。文字どおり、最終ラインの「裏」事情(攻防)に明るいチームの躍進が際立った。

優勝を争った横浜F・マリノスとFC東京はその象徴だ。徹頭徹尾、守備側のライン裏を突いて勝利を積み上げている。そこで強力な武器になったのが走力だ。仲川輝人(横浜FM)や永井謙佑(東京)といったJ1屈指のスピードスターが猛威を振るった。

速い、速い、とにかく速い。ひとたび裏へ走れば電光石火。たちまちフィニッシュまで持っていった。スピードに不安を抱える守備者にとっては受難の1年だったか。

横浜FMとFC東京の違い。
横浜FMと東京の走力はデータからも読み取れる。1試合平均のスプリント(時速24km以上)回数だ。1位が横浜FM、2位が東京だった。とくに横浜FMの193回はJ1の平均値(160回)を大きく上回った。昨年が175回(3位)だから大幅アップだ。

スプリントと言っても攻守の両面で用途はさまざま。攻守の切り換えや、それにつながる攻撃側(ボール保持者)への圧力でも発動する。横浜FMと東京はその方面でもよく走ったが、ライン裏への鋭いアクションの連続によって大きく数字を伸ばしてもいた。

ただ、横浜FMと東京ではチームの設計が違っている。分かりやすいのは1試合平均のボール保持率だろう。横浜FMは61.4%。J1では断トツの数字だ。一方、東京のそれは47.8%で、下から5番目。いかにも堅守速攻型の数字らしい。

東京の場合、ある程度、相手を引き込んで守ることで速攻に転じるときには敵陣に大きなスペースがある――という設計だ。一方の横浜FMはパスをつないで攻め込んでいく。それでも面白いようにライン裏を突く仕組みを整えているあたりがミソだ。

後ろでつないで裏一発。
同じポゼッション型でも川崎フロンターレや名古屋グランパスの攻め方とは大きく違っている。敵陣にがっちり押し込んで崩すのが川崎Fと名古屋の基本設計。自陣よりも敵陣でパスをつないでいる割合がはるかに高い。相手は引いて守っている状態だから、ライン裏のスペースは小さいが、技術とアイディアを使って、そこを攻略するわけだ。それこそ前でつないで密集突破――である。

では、横浜FMはどうか。川崎Fや名古屋と比べると、自陣でパスをつないでいる割合が高く、ずっと敵陣に押し込んで攻めているわけではない。後方で敵の包囲網をかいくぐって一気に仕掛けるケースが多いからだ。

後ろでつないで裏一発――である。

狙い目はサイド裏。そこで仲川ら韋駄天が待ち構えているからだ。仕掛けが速いぶん、背後のスペースはまだ「使い放題」の状態。スピードが存分に生きるわけである。

中央から仕掛ける場合は、相手の最終ラインの手前に起点をつくってから裏へ。後方から一気に縦パスをつけるか、一度サイドを経由して斜めのパスを入れる。中央の密集地帯ではあまり手数をかけない。あくまでもピッチを広く使って攻めていた。

裏抜け上等の古橋、ヤットの多彩なパス。
攻撃の要諦は「幅と深さ」だが、この両輪を上手に回して攻撃力を高めたチームはほかにもある。ヴィッセル神戸、ガンバ大阪、さらに昇格1年目の大分トリニータだ。いずれも1試合平均のボール保持率が高く、神戸は57.9%で2位、G大阪は53.3%で6位、大分は54.5%で3位だった。

いずれも陣形は3バックでウイングバックが幅を取り、後ろでつないで一気に裏を突く選択肢を持っていた。神戸の場合は敵の最終ラインの手前にいるアンドレス・イニエスタへ早めにパスを入れて裏へ。そこで「裏抜け上等」の古橋亨梧が躍動している。

手が込んでいたのはG大阪だ。陣形は神戸と同じ3-5-2。アンカーの遠藤保仁(または矢島慎也)が後方から多彩なパスを繰り出して、中盤の密集地帯を一気に突破する。直接トップにつける縦パスに加え、サイド裏への広角パス、さらに一発でゴールにつながるタッチダウンパスまであった。

遠藤や矢島だけではない。3バックの中央を担う三浦弦太も最後尾から一発で裏を突くパスを持っており、浦和レッズとの最終節では福田湧矢の初ゴールをアシストしている。もとよりG大阪は細かくパスをつないで攻め込む力も十分。宇佐美貴史が前線で大暴れしたリーグ終盤の快進撃も納得か。

開幕戦で鹿島を破った大分。
逆に大分はリーグ前半戦でライン裏を突く攻めが際立った。こちらは敵陣よりも自陣でパスをつなぐ割合がはるかに高い。川崎Fや名古屋とは対照的だ。相手を懐に引き込み、一気に裏返す手際が洗練されていた。

狙い目はやはりサイド裏だ。とくに快足で鳴らす右ウイングバックの松本怜を走らせ、その折り返しを点につなげている。また松本が対面の守備者を足止めし、その背後に右のシャドーや右のバックスがすかさず走り込むオプションも用意していた。

中央から突く場合はシャドーの小塚和季にパスを入れて裏へ。仕上げは裏抜けの申し子みたいな藤本憲明(シーズン途中で神戸に移籍)だった。敵地でアジア王者の鹿島アントラーズを破った開幕戦で、ライン裏にガンガン走って殊勲のゴールを重ねる藤本の姿がこの1年を暗示していたのかもしれない。

足元でパスをもらうのもいいけれど、裏が空いているなら、走ってみませんか?

裏へ蹴る人、走る人――案外、このオフの人気銘柄か。トレンドに乗っかるなら、まずは弓と矢をそろえないと。もっとも、来年の「裏」事情がどうなるかはわからない。フタを開けてみたら、ドン引きチーム続出とか。それだけは勘弁願いたいが……。

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