「なぜ日本人はスペイン国旗を振ってスサエタを応援するんだ?」現地の指摘から始まったA・ビルバオとガンバ大阪サポーターの知られざる交流

「ダービーではイクリーニャをアピールしたい」
「日本人はバスクとスペインの違いもわからないのか」

きっかけは、バスク地方のローカルメディア『Athletic-Zurekin』の記事だった。

9月9日にガンバ大阪と電撃契約を結んだスペイン代表MFマルケル・スサエタが、J1デビュー戦を飾った14日のサガン鳥栖戦は、『DAZN』を通じてスペインでも配信されていた。

カメラがスペイン国旗を振るG大阪サポーターの姿を抜き、見過ごすことができなかったようだ。

17の自治州に別れ、それぞれに州政府置かれているスペインのなかでも、バスク州は、歴史的背景からバルセロナのあるカタルーニャ州と並んで独立心が強く、バスク語を話す人も少なくない。

エイバル出身のスサエタもバスク人であり、バスク最大のクラブであるアスレティック・ビルバオの生え抜き選手だった。「スサエタの応援にスペイン国旗を振るなどナンセンス。そこはイクリーニャ(バスク州の旗)だろう」というわけだ。

この記事に、あるガンバファンが反応し、「イクリーニャのことは知っているけど、旗を振るにはクラブの許可がいるし、手に入れるまでに時間がかかる」とのコメントを投稿。この一連のやり取りは、サポーターの間で次第に広まっていった。

そんななか、ビルバオに住む現地の友人からこの一件を聞いたのが、アジアで唯一のA・ビルバオの公式ペーニャ(ファンクラブ)である「ペーニャ アトレティック トキオタラク」の会長を務める村上正己さんだった。

「こんなことになっているけど、何とかならないのか」と相談され、ひと肌脱ぐことに。熱心なガンバサポーターの北原秀一郎さんと連絡を取り、手元にあったイクリーニャを2枚、貸すことにした。

さらに、「セレッソ大阪とのダービーでは、中継を見ているバスクの人たちにイクリーニャが振られていることをアピールしたい」と考えたガンパサポの福田唯人さんから知人を介して相談を受けた村上さんは、ちょうどバスクを訪れていた友人に10枚のイクリーニャの購入を依頼。何とかダービーに間に合わせることができた。

福田さんは、旗に取り付けるポールなどをホームセンターで買い込み、手作りでフラッグを完成。クラブの許可も取り、ツイッターで“持ち手”を募集すると瞬く間に集まり、ダービー当日には、イクリーニャの旗がスタンドを舞ったのだった。その中には、鳥栖戦でスペイン国旗を振ったサポーターいたという。

村上さんが北原さんからもうひとつ依頼を受けていたのが、スサエタのチャントの“伝授”だった。

スサエタが「感激した」こととは?
村上さんは、現地で歌われているチャントを日本仕様にアレンジし、地元のスサエタ・ペーニャの許可も得て3曲を用意。たとえば、本来のスサエタのチャントは、「エタ、エタ、エタ、スー、サー、エタ」という歌詞だったが、「エタ」はバスクの独立求める過激派組織『ETA』(現在は解体)連想させるため、「スサ、スサ、スサ、スー、サー、エタ」に修正した。

また、「アスレティック、グガラ~」を繰り返すチームのチャントを「スサエタ、グガラ~(俺たちのスサエタ)」に改良した。

ただ、サポーター連合のルールで、個人チャントを勝手に歌うことはできないため、現在は「申請中」だという。

北原さんや福田さんらサポーターの有志は、大阪ダービーの試合前、スタジアム周辺でイクリーニャを振りながら、チャントの練習を行なった。その様子を収めた動画が、巡り巡って一部のスペイン・メディアに渡り、海の向こうで紹介されたりもした。

スサエタもその動画を目にしたようで、先月プライベートで村上さんと会った際、「僕のチャントを練習してくれていて感激した」と話していたという。

村上さんと福田さん、北原さんの交流は、その後も続いている。スサエタの加入を通して生まれたアスレティック・ビルバオとガンバ大阪のサポーターの絆は、これから先も――。

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