ガンバの有望株を日本語で励ます、アデミウソンは天才肌かつエエ奴。

ガンバ大阪が北海道コンサドーレ札幌を2-1で振り切ったルヴァンカップの準決勝第1戦は、良くも悪くもアデミウソンらしさが発揮された一戦だった。

5日前に行われたJリーグでも同じカードが実現したが、アデミウソンは1得点2アシストの大活躍。5-0という圧勝を牽引したプレーは、かつてU-21のブラジル代表で背番号10を担った男のそれだった。

しかし、気まぐれなブラジルの天気同様、アデミウソンの出来は読みづらいのも事実である。

ルヴァンカップの顔合わせでは開始早々の1分、倉田秋のパスに抜け出し、相手GK菅野孝憲の頭上を越すループシュート。しかしこの絶好の先制機で、シュートはゴールをとらえることはできなかった。

難しいゴールを決める一方で……。
ブラジル屈指の名門、サンパウロの下部組織で育ったアデミウソンはサッカー王国の超エリートコースを歩んできた。

名古屋グランパスのガブリエル・シャビエルや、かつて鹿島アントラーズでプレーしたカイオがサンパウロのトップチームにたどり着けなかったのとは対照的に、アデミウソンはサンパウロでプロデビュー。2013年にはクラブ史上最年少となる19歳でコパ・リベルタドーレスでゴールを決め、未だにその記録は破られていない。

難易度の高いシュートをこともなげに決める一方で、イージーなはずのシュートをあっさりと外してしまうのは、逸材の悪癖の1つなのである。

プレー面だけで判断するならば、ブラジル生まれの選手にありがちな「気まぐれなストライカー」とみられても仕方ないアデミウソンだが、実は一方で日本人顔負けの真面目さも持ち合わせている。

「僕に高い投資をしてくれたのに」
ガンバ大阪に移籍後、3年連続での無冠が決まった昨年末、アデミウソンが口にした言葉に筆者は感心したことがある。

「クラブは高い投資をして僕を獲得してくれたのに、未だにタイトルを取れていない。来年こそは何とか優勝したいんだ」

マグノ・アウベスやシジクレイ、ルーカスら数多くの素晴らしいブラジル人選手を取材してきたが、自身のコストパフォーマンスに言及したブラジル人はアデミウソンが初めてだった。

タイトルへの渇望――。アデミウソンが秘めた想いは、ルヴァンカップ準決勝でも随所に見て取れた。まだスコアレスで試合が推移していた42分のこと。札幌のCKがルーズボールになると、アデミウソンは自陣の右サイドで猛然とスライディングを繰り出し、守備に奔走するのだ。

決定力に波はあるかもしれないが、ハードワークとチームへの献身的なプレーは今季、ブラジル人助っ人が継続して見せてきたものだった。

大阪ダービーで見せた意地。
象徴的な1日がある。

9月28日に行われたセレッソ大阪との大阪ダービーで、ガンバ大阪はリーグ戦で実に7年ぶりとなる敗戦を喫したが、アデミウソンは王国のダービーを知る男ならではの意地を披露した。

「ダービーはモチベーションが高いし、僕も先発でプレーしたかった。プレーしたかったんだ」

プレーしたかった、と同じ言葉を2度繰り返すあたりにその悔しさが見て取れたが、アデミウソンがパトリックとともにピッチに送り出されたのは致命的な3失点目を喫した直後のことだった。

宮本恒靖監督の采配の遅さが出たこの一戦でも、生真面目なアデミウソンは出場直前にパトリックとこんな話をしたという。

「このままだと、チームが下を向き続けて、さらに失点が続いてしまう。僕らが入ってやれることにベストを尽くそう」

ガンバの名誉のために放った一撃。
組織的なセレッソ大阪の守備を個で崩そうとアデミウソンは奮闘。後半アディショナルタイムには相手GKキム・ジンヒョンのオウンゴールを誘発するシュート気味のキックで、完封負けからチームを救って見せたのだ。

「あの状況で、チームが諦める姿勢を見せると3点、4点という失点につながったと思う。1点取れたのは大きいし、最後まで諦めなかった姿勢は今後につながる」

ブラジルでは大量失点の試合で、かろうじて返した1点を「ゴウ・デ・オンハ(名誉のゴール)」と称するが、絶望的な試合展開で、背番号9はガンバ大阪の名誉のために、ピッチを駆けていた。

2年目の福田に日本語で話したこと。
サンパウロではレギュラーに定着しきれず、U-21ブラジル代表以来、カナリアイエローのユニフォームにも縁がないアデミウソン。しかし、王国屈指の名門で過ごした経験は、今の立ち振る舞いにも活きている。

エゴとは無縁の助っ人は、世代交代が進みつつあるガンバ大阪において良き兄貴分としての存在感も見せはじめているのだ。

5月の大阪ダービーでは1-0でガンバ大阪が勝利したが、終了間際のことだった。先発に抜擢された福田湧矢がドリブルで切れ込むと、中央でフリーのアデミウソンへのパスを選択せず、放ったシュートはGKがあっさりキャッチ。アデミウソンはその瞬間こそ怒りを露わにしたが、試合後にはプロ2年目の福田を日本語とジェスチャーを交え、こういたわったという。

「大丈夫。私も若い時はそうだった」

他ならぬ福田も証言する。

「アデ(ミウソン)はむっちゃ、優しかったですよ」

アデミウソンがサンパウロでトップデビューした当時のチームメイトはクラブのレジェンド、ロジェリオ・セニやルッシオ、カカーら世界王者に輝いたブラジル代表が数多く存在した。

「セレソンの経験者から僕は色々なことを学んだんだ。ピッチではそういう選手のサポートに心強さを感じたし、僕がボールを持った時、彼らが『前を向いて仕掛けろ』『自分のプレーをしていいよ』と声をかけてくれたことが、今の自分につながっている。ガンバではそういうことも今の僕の立場でやれたらいい」

スペイン人のコンチャも食事に誘う。
今年3月、スペイン人のダビド・コンチャがチームに加わった際も通訳のいないコンチャをいち早く夕食に誘ったのはアデミウソンだ。互いに言葉が通じず、英語をメインに会話せざるを得なかった2人だったが、「僕も若くして海外でプレーして来た。慣れない異国で過ごす気持ちが分かるからね」(アデミウソン)。

とにかく「エエ奴」なのだ。

もちろん、人柄よりもプレーで評価されるべきプロサッカー選手である。

9月14日のサガン鳥栖戦ではサイドハーフで途中出場し、終了間際にピンポイントクロスで渡邉千真の決勝点をお膳立てしたり、前述の通り北海道コンサドーレ札幌戦で大暴れしたりと、アデミウソンはピッチ内でも存在感を見せはじめている。

今年でガンバ大阪との契約は満了するが、クラブは契約を延長する方針で、すでにエージェントにも伝えている。

松波正信強化部長は言う。

「今シーズンの最初はブラジル人が彼ひとりだったので、日本人や韓国人とコミュニケーションも積極的にとっていた。そういう環境も彼の人間的な成長につながっているし、プレーの質はボールを止める、蹴るを含めて非常に高い。それに献身的にやってくれる。基本的には来年もうちでやってほしいとオファーは出している」

松波強化部長の判断はもっともだ。昨年序盤まで悩まされたグロインペイン症候群も癒え、日本のサッカーに完全適応したブラジル人助っ人は他のJリーグクラブにとっても魅力的な存在のはず。ガンバ大阪が契約を延長しなければ、他クラブが手をあげるはずだ。

来季はフィニッシャーとしても期待。
ただ、横浜F・マリノスでプレーした2015年を含めて、過去4シーズン、Jリーグでは2桁得点に達したことがない。歴代のブラジル人エースと比べると物足りないのは事実で、ガンバ大阪では移籍1年目の9得点が最高成績だ。松波強化部長はフィニッシャーとしての役割も来季はさらに求めるつもりだという。

「点を取ることはもっともっと、求めていきたい。10点以上取ってくれないといけない選手だと思うし、そういう意味ではまだ足りない」(松波強化部長)

「未完のクラッキ」にとって、来年はガンバ大阪で5シーズン目。心優しきブラジレイロ(ブラジル人)は、まだその伸びしろを隠し持っている。

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