【FC東京】老獪に映った“宇佐美封じ”。森重のテクニカルファウルは値千金だった SOCCER DIGEST Web 8月17日(月)17時0分配信

「中盤がパワーを残した状態でゴール前まで行ける」(羽生)

 正GKの権田がオーバートレーニング症候群に陥り、アンカーの梶山は左足関節捻挫および左ひ骨骨挫傷で離脱中。8月初旬のドイツ遠征で左膝前十字靭帯を断裂した石川は今季絶望で、さらに左SBの太田も右大腿二頭筋長頭肉離れで9月中旬頃まで戦列に復帰できない見込みだ。

しかし、主力メンバーがバタバタと怪我に倒れながらもFC東京は力強く前進している。J1の第2ステージでは、5節の仙台戦、6節の甲府戦に続き、7節のG大阪戦でも勝利。内容も伴った3連勝で4位に浮上し、首位の鹿島に勝点3差と迫った。

豪雨に見舞われたG大阪戦で目を見張ったのが、その悪天候をモノともしない精神力の強さと抜群のチームワークだった。

精神力の強さが見て取れたのは、47分にパトリックのゴールで追いつかれた後の試合運び。G大阪に流れが傾きかけても決して焦らず、じっと耐えていた時間帯のチーム状況を、CBの森重は次のように振り返っている。

「上手くいかない時でも、立ち返れる場所(しっかりと守備から入る)があるのは大きいです。チームとしてなにをすべきか、それをみんなが分かっていましたから、焦りはなかったですね」

実際、押し込まれながらも決定機らしい決定機は与えず、逆にカウンターから絶好機を作り出す。58分、G大阪の両ボランチ(遠藤と今野)が攻め上がった 隙を突き、ドリブルでグングンとボールを前に運んだ米本がエリア付近で右サイドの羽生にパス。そして羽生の絶妙なクロスにN・バーンズが頭で合わせ、 2-1と勝ち越したのだ。

抜群のチームワークを見せつけたのが、まさにこの2点目だった。殊勲者のひとり羽生が「あそこでスイッチを入れる意識がチームとしてあった」と言うように、ここぞというタイミングで最高のカウンターを仕掛けたのだ。

羽生のポストワーク→N・バーンズの折り返しから、米本が右足で押し込んだ先制弾も、いわばチーム一丸となって決めたゴール。前節の甲府戦では高橋が決勝弾と、ここにきて中盤の選手が効率良く得点に絡んでいるのは見逃せない。

MFの攻め上がりを可能としているのが、前田の献身的なポストワークだ。このベテランFWが最前線で身体を張り、タメを作ってくれるからこそ、「中盤がパワーを残した状態でゴール前まで行ける」(羽生)のだろう。

宇佐美にはあえて“打たせていた”印象も。

 前線でドンと構える前田が“静”なら、彼の周辺を衛生的に動いて回るN・バーンズは“動”。相互補完に優れた2トップに、中盤も上手く絡めるようになってきた今のFC東京は第1ステージ序盤の堅守も取り戻した印象で、明らかにチームとしてまとまっている。

GKの榎本、右SBの松田ら“代役たち”が継続して及第点以上のプレーを見せているのも、チームが好調の要因と言えるだろう。

守備面に関して言えば、G大阪戦では宇佐美への対応が素晴らしかった。4-4-2の左サイドに入った彼を、エリア外ではある程度自由にさせても、エリア内には入れない──。

「ある程度持たせて、近づいてきたところを中盤の選手と挟み込む意識は持っていた」とCBの吉本が言うように、なにふり構わず抑え込むのではなく、要所を締めたディフェンスで封じ込めたのだ。

確かに、宇佐美にはシュートを6本も打たれた。それでも、“打たれた”のはおそらく19分の1本。残り5本はあえて遠距離から“打たせた”印象で、いわばFC東京の思惑通りだったように映った。

結果的にファウルになったが、55分に宇佐美のドリブル突破を止めた森重のブロックはファインプレーだった。

G大阪に流れが傾きかけた時間帯、センターサークル付近で3人をごぼう抜きしてきた宇佐美を、あそこで止めていなければおそらく失点につながっていた。その意味で、森重のテクニカルファウルは値千金だった。

なかには反則で止めるなんてフェアではない、という見方もあるだろう。ただ、そうした駆け引きもサッカーの醍醐味の一部分であるのもまた事実だ。反則覚悟で止めた森重のブロックは、その十数分後にN・バーンズが決勝点を決めた流れを考えれば、結果的に正解だった。

その森重を累積警告で欠く次節、FC東京はG大阪戦と同じく老獪な試合運びを見せられるだろうか。豊田スタジアムで名古屋を下せれば、第2ステージ制覇への希望がまた一段と膨らむ。

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