ガンバ大阪のルヴァン杯4強裏に“3冠ホットライン”

90分間の勝負では1-2で敗れた。しかし、ホームでの第1戦との合計スコアで2-2と追いつき、アウェイゴールの差でFC東京を振り切った。ガンバ大阪を2年ぶりのベスト4へと導いた原動力は、今夏に約3年ぶりとなる復活を遂げた「3冠ホットライン」だった。

ガンバの先勝を受けて行われた、8日のYBCルヴァンカップ準々決勝第2戦。ラグビーワールドカップの会場となる味の素スタジアムに替わり、大宮アルディージャが本拠地とするNACK5スタジアム大宮を舞台にして、台風15号の影響で当初予定の午後6時から90分繰り上げられてキックオフされた一戦で、ガンバは敗退の危機に直面した。

前半20分にFWディエゴ・オリヴェイラに、後半22分には東京五輪世代のホープ、20歳のFW田川亨介にゴールを許す。この時点で4日の第1戦との合計スコアを1-2と逆転されたが、後半13分から投入されていたFW宇佐美貴史は不思議なほど落ち着いていた。

「プランとしてひとつ取る、というのがあったので。ひとつ取れば向こうは3点が必要になってくるわけで、その1点を遅かれ早かれ取ることができた。2試合を含めた戦い方で、相手を上回ったということに関してはよかったと思っています」

状況を一気にひっくり返す、千金のアウェイゴールが生まれたのは後半31分だった。敵陣の中央でボールをキープした宇佐美が、右サイドの奥深くにポジションを取っていたDF高尾瑠へパスを通す。そして次の瞬間、宇佐美は右手で手招きしながら、高尾にリターンパスを要求した。

「あの場面ではワンタッチのタイミングしか狙っていなかった。パトの前の空間へ落とす、というイメージで蹴りました」

高尾へパスを出した直後に、宇佐美は素早く右サイドへ移動。フリーの状態を作り出し、余裕をもった体勢で右足から緩やかな軌道を描くクロスを送った。標的はファーサイドにいた、パトの愛称で呼ばれるFWパトリックの目の前に広がるスペースだった。

「自分が構えて待ちながら来たボールに対してヘディングをするよりは、自分からボールに向かっていって、ボールにアタックしながらヘディングをする方が、相手の選手にとってもすごく難しいシチュエーションになる。そこはイメージ通りできたと思う」

以心伝心のプレーだったと、身長189cm体重82kgのサイズを誇る重戦車パトリックも笑顔で振り返る。あえてファーサイド、身長176cm体重69kgのDF室屋成の背後にポジションを取り、サイズの差を計算に入れて制空権を確保。さらに勢いをつけながら強烈なヘディングを見舞った。

パトリックが右手を使っているのではと、室屋とのコンタクトがVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の対象にもなったシーン。ピッチに叩きつけられたボールはFC東京のGK林彰洋が必死に伸ばした左手の先をかすめ、右ポストに当たってゴールマウスに吸い込まれた。

「以前に彼と一緒にプレーしていた時期が、すごく懐かしくなるようなクロスだった。彼からのパスというのは、忘れることなくいつもプレーしているので」

笑顔を浮かべながらパトリックが振り返った、宇佐美との「以前」をさかのぼっていくと2014年の夏に行き着く。前年に川崎フロンターレとヴァンフォーレ甲府でプレーし、母国ブラジルへ帰国。ガンバへの期限付き移籍で半年ぶりに来日したパトリックへ、宇佐美はこんな第一印象を抱いている。

「こんなに下手くそなブラジル人選手がおるんか……」

基本となるトラップやパスに、サッカー王国で育ってきた面影は感じられなかった。しかし、パトリックにはどんな状況でも労を惜しまずに走る献身性と、相手を畏怖させる巨体にいま現在も身体に脈打つ、宇佐美をして「相手の背後へ動いていく強烈な武器」と言わしめる推進力があった。

そして、ブラジルワールドカップによる中断明けから、パトリックと宇佐美が織りなす「剛」と「柔」のコンビネーションがJ1戦線を席巻する。前者が強靱なフィジカルと縦への推進力で相手の守備網を強引に押し下げ、生じたスペースに侵入した後者が攻撃のオールラウンダーぶりを発揮する。

再開後の20試合で合計18ゴールをマークした2人にけん引されるかたちで、J2への降格圏にあえいでいたガンバもV字回復。ルヴァンカップの前身ヤマザキナビスコカップを制し、リーグ戦でも奇跡の逆転優勝を達成。勢いに乗って天皇杯も制した。

2000シーズンの鹿島アントラーズ以来、史上2チーム目となる国内三冠制覇。偉業達成の原動力になった最強コンビは、2015シーズンにはリーグ戦で合計31ゴールをマーク。しかし、宇佐美が2度目の海外移籍を果たした2016年6月末をもって別々の道を歩み始める。

そして今夏に2人のサッカー人生が再び交わる。先にガンバへ復帰したのは宇佐美だった。アウグスブルクとの契約が2年残っている状況で、中学生時代から心技体を磨いてきたガンバから完全移籍のオファーが届いた。バイエルン・ミュンヘンとホッフェンハイムへ期限付き移籍しながら、ブンデスリーガの厚い壁にはね返されて復帰した2013年の夏とは状況がまったく違った。

すでに27歳。中堅の域に差しかかったからこそ、不退転の覚悟を込めて復帰を決めた。移籍が発表された6月25日。本拠地パナソニックスタジアム吹田で記者会見に臨んだ宇佐美は、ルーキーイヤーに背負った「33番」のユニフォームを手にしながら、自虐的な言葉に闘志を凝縮させている。

「2度目の挑戦もダメだった、という気持ちが清々しいくらい自分のなかにある」

1か月後の7月25日には、パトリックがサンフレッチェ広島から期限付き移籍で復帰する。昨シーズンは得点ランキング2位の20ゴールをあげながら、今シーズンはコンディション不良もあって出場機会が激減していたパトリックのもとへは、浦和レッズからもオファーが届いていた。

「僕のハートの一部はガンバの色に染まっているし、いまでも強い思い入れがある」

迷わずにガンバを選んだパトリックは、こんな言葉を残している。2016年秋に右ひざに全治8か月の大けがを負ったパトリックに対して、ガンバは満了目前だった期限付き移籍の期間を半年間延長する配慮を見せている。完治した後に加入したサンフレッチェで完全復活を果たしても、ガンバへの恩を忘れていなかった。

「僕がペナルティーエリア内に入ったら、クロスを入れて欲しいとみんなには言っていたけど、前半はなかなかボールが入ってこなかった。ただ、宇佐美が入ってからは、彼がいいボールを入れてくれることはわかっていたので、しっかりといいポジションを取ることができた。
でも、いま現在がマックスじゃない。彼もヨーロッパでいろいろなことを経験して、引き出しやアイデアが増えたはずだし、僕も広島で多くのゴールを決めただけでなく、けがなどもあっていろいろなことも勉強して、サッカー選手としても人としても成長できたと思っているので」

コンビ再結成から公式戦で6試合目、時間にして273分目で開通させた待望のホットライン。殊勲のパトリックが手応えをつかめば、なかなかコンディションが上がらない宇佐美も絶妙のアシストを逆襲への起爆剤にしたいと力を込めた。

「パトだけじゃなく、他の選手ともプレーの面で合わせていかないといけない。ただ、パトがボールを受けたいタイミングを思い出す作業をしているなかで、アシストができたのはよかった」

6戦連続未勝利(5分け1敗)の真っ只中にいるリーグ戦で、ガンバは14位に甘んじている。残留争いに巻き込まれかねない状況から抜け出す勢いをつけるためにも、2015シーズンの天皇杯以来となるタイトル獲得への可能性が膨らんだルヴァンカップを、眩い輝きを取り戻した「3冠ホットライン」を中心に全力で獲りにいく。

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