急激な世代交代のひずみ──。大量6選手が退団のガンバ大阪、舞台裏でなにが起こっているのか

異例だった田中の移籍。そこに熱意はあったのか

 ガンバ大阪は今夏、ここまでに6人の選手を放出した。

DFオ・ジェソクがFC東京へ、MF田中達也が大分トリニータへ、FWファン・ウィジョがフランス1部のボルドーへ、MF中村敬斗がオランダ1部のトゥベンテへ、MF藤本淳吾がJ2の京都サンガへ、そして、MF今野泰幸がジュビロ磐田へと新天地を求めた。

今シーズンは序盤戦でJ2降格圏にも沈んだものの、5月18日のセレッソ大阪戦に勝利してからは4勝3分け1敗。それ以前の11試合が2勝2分け7敗だったことを考えると、明らかにチームの結果は上向いている。では、なぜここまで夏の選手流出が激しいのか。ガンバの番記者として、取材に基づいた事実と私見も交え、読み解いてみたい。

まず第一に、欧州へとステップアップするファン・ウィジョ、中村の移籍は避けられなかった。クラブは昨季、16ゴールを決める活躍をみせてJ1残留に大きく貢献したエースのウィジョを今季もチームにとどめるため、Jリーグを含めた欧州以外のクラブへの移籍には莫大な違約金を設定した。一方、かねてからウィジョが希望していた欧州クラブからオファーが来た場合は、推定2億円という現実的な違約金を設定。その結果、今夏に本人が希望した欧州からのオファーが届き、送り出すしかなかった。

さらに2018年に複数クラブとの争奪戦の末に獲得した中村も、欧州クラブからオファーがあった際には送り出す、という条件があったと聞く。近年、若いタレントを獲得する際にはこういった事例が多い。クラブがそれだけ有望な選手を獲得し、育てたことも事実だ。

続いてオ・ジェソクは、昨季までの4バックから3バックへと布陣変更したことで出場機会が激減していた。藤本も若手の台頭で出場機会を失っていたことで、移籍を決断した。

異例だったのは、わずか半年でガンバを去った田中だ。今季熊本から加入すると、シーズン序盤戦こそ出場機会に恵まれなかったが、6月29日の松本山雅戦では右ウイングバックで先発し、アシストもマークするなど持ち味を発揮しはじめていた。田中は最後の挨拶のためにクラブハウスを訪れた際、移籍の理由を「一番は(大分の)熱意です」と話した。つまり、ガンバは必要戦力をチームにとどめるという熱意で、大分に劣ったことになる。

ベテラン選手にとってかならずしも居心地は…

 クラブが選手に熱意を示す形は、年俸や契約年数など条件面がひとつ。もうひとつは、いかに選手がこのクラブにとって必要とされているのかを感じさせることだ。そういったマネジメントの部分で、田中に対しガンバは大分以上に魅力的だと思わせることができなかった。かつてのようにクラブのブランド力で、選手を引き付けられる時代ではないという現実を、突きつけられた移籍劇でもあった。

最後に、今野の移籍だ。これまで日本屈指の守備型ボランチとして、さらに遠藤保仁の名パートナーとして長くチームを支えた功労者だ。今季は負傷を繰り返し、出場機会が減っていたとはいえ、まだ十分チームに貢献できるはずの存在だった。

「夏のタイミングで移籍することは考えてはいませんでしたが、ジュビロからオファーをいただいて、流れに身を任せたらあっという間に移籍することになりました。シーズン最後までみんなと戦いたかった気持ちはものすごくあったし、迷惑をかけてしまうので本当に悔しいし、チームメイトのみんなと別れるのは寂しいですが、でも、プロの世界なのでこういうことはあると思って、なんとか切り替えて、ジュビロ磐田で活躍できるように頑張りたい」

このコメントだけでも、今野が決断に苦しんだ胸の内は伝わってくる。

さらに「またポジション争いをして、絶対に勝ってやろうという気持ちでいたので、試合に出られないから移籍したということでは正直ないです」とも語っている。世代交代を急速に進めるチーム、そのなかでの自らの立ち位置、一方で、7年半苦楽を共にしてきたチームメイトたちへの想い。すべてを呑み込み、移籍を選んだと推測する。

今回の流出劇の主な理由は、急激な世代交代のひずみだ。開幕当初、J3が主戦場だったFW食野亮太郎やMF福田湧矢、高江麗央、DF高尾瑠が成長を遂げ、トップチームに定着。その結果、ベテラン選手が押し出された。この事実は、世代交代を進めたいクラブにとって悪いことではない。FW宇佐美貴史が復帰、川崎フロンターレからMF鈴木雄斗を獲得し、さらにMF井手口陽介の復帰も狙うなど、補強も進めている。しかしそんな状況が、長くチームを支えるベテラン選手にとって、どこか居心地の悪い空気になっていたように見えた。

今後より強く、愛されるクラブになっていくために

 2015年を最後にタイトルから遠ざかっているクラブが、ふたたびJ1で優勝を争うクラブになるために、必要な痛みがあることは理解する。

ただ個人的な意見としては、クラブや宮本恒靖監督は、もっと選手たちと対話を増やしていくことで、その痛みを少しでも和らげることはできるのではないか、と感じる。いくら対話しても、出場機会を失った選手の場合はいい顔をしないかもしれないし、納得もしないだろう。それでも、真のこもった一言で、胸のつかえが軽くなることはある。

プロの世界である以上、いくら過去に貢献した選手でも、かならず別れるときは訪れる。それでも功労者が涙を浮かべて去るようなことは、今後ガンバ大阪がより強く、愛されるクラブになっていくためには、もう避けなければならないはずだ。

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