急増するJ監督の途中交替は効果的?1試合平均獲得勝ち点を比べてみた。

「監督には2通りしかない。クビになった監督と、これからクビになる監督だ」

もはやサッカー界の格言となった感すらあるこの名セリフは、リーズ・ユナイテッドの監督として、1991-92シーズンのイングランド1部リーグで優勝、イングランド代表の臨時監督も務めたハワード・ウィルキンソンによるものだ。

Jリーグもご多分にもれず。J1は年間34試合のリーグ戦前半が終了。J2、J3は間もなく折り返しを迎える時期ではあるが、すでに多くのクラブで監督交代が行われている。

J1のヴィッセル神戸、サガン鳥栖、清水エスパルス、浦和レッズ、ジュビロ磐田。J2ではジェフユナイテッド市原・千葉、アルビレックス新潟、横浜FC、アビスパ福岡、FC岐阜の合計10クラブが、それぞれ新指揮官の下、捲土重来を期している。

昨年、設立以来最多となる7件ものシーズン途中の監督交代が行われたJ3こそ、今年はまだ無風だが、J1、J2における交代ペースはすでに昨年を上回っている。

途中交代が増えた複合的な理由。

 いまから10年前、’09年にシーズン中の監督交代を行ったのは、J1、J2を合わせて6クラブだった。翌’10年が5クラブ、’11年も4クラブに過ぎなかった。それが’14年になると、10クラブが途中交代を行なうようになり、翌’15年以降も10、8、10、9と、2ケタ前後を推移している。

増えた理由については、監督候補者(指導ライセンス保持者)の増加、海外の情報網や代理人ネットワークの充実。いわゆる「DAZNマネー」による賞金の大幅アップや、J3との入れ替え制の導入によって、目先の成績がよりシビアに求められるようになったこと、などと推測できる。

’09年から昨年までの10年間に、シーズン途中の監督交代が最も多かったのは神戸と大宮アルディージャの6回(昨シーズンの林健太郎監督のような、前任監督と後任監督の間に、暫定的に短期間指揮した監督を挟んだケースは、2回ではなく1回の交代とカウントした)。

神戸に関しては、今年すでに2回の途中交代を行ったのはご承知の通りだ。

低迷に苦しんだ、ある監督の言葉。

 次いで多かったのが千葉、新潟、横浜FCの4回。このうち新潟では’16年以降、毎年途中交代がくり返されている。過去の実績やネームバリューに捉われない、一味違った監督選びに挑戦しているクラブだけに、残念な気がする。反対にシーズン中の監督交代から最も遠ざかっているのは湘南ベルマーレで、’06年が最後になる。

以前、あるJリーグの監督が成績低迷に苦しんだシーズンを振り返って話していた。

「ダメなところがあると、そこを修正しようとする。そうすると、一番やらないといけないところが消えていってしまう。案外やれているなと思っているところまで、やれなくなっていく。

自分ではブレているつもりはないんだけど。負けが込んでいくと、本来最も強く取り組まないといけないところに掛ける割合とか、言葉でのメッセージとかが、どんどん減っていってしまう。できないから修正する。でも、その修正に時間を割いていくと、今度は自分たちの一番ストロングにすべきところが、ボヤけてきちゃう。そんなことを感じていた」

勝てば評価、負ければ批判の対象。

 現場で指揮を執るおそらく誰もが同じような葛藤のなか、こうした微妙なバランスと向き合っているのだろう。同じような戦い方や選手起用を続けていても、勝てば「一貫性がある。やることにブレがない」と称賛される。

が、負ければ「引き出しが少ない。頑固だ」などと批判の対象になる。反対に、たとえやっていることや言っていることがコロコロ変わろうと、勝ったときには「戦い方の幅が広い。戦術に柔軟性がある」といった評価を受けることになる。

チームは生き物とは、よく言ったもので。けっして間違っていない方針で進んでいるつもりでも、一度負の連鎖に陥ると、ケガ人が続出したり、練習中でもやらないようなミスが勝負所で頻発したり、アディショナルタイムでの失点で勝点を手放す試合が連続する。

前任よりも勝点が上回る割合は?

 理屈では考えられないことばかりが起こるケースは、たしかにある。すると「“ムード”を変えたい」、「刺激を与えるカンフル剤にしたい」といった、論理とはかけ離れたところで、監督交代が起こりがちだ。

はたして、どれほどの効果があるのか。シーズン途中の監督交代の成否について、リーグ戦1試合あたりの勝点で計算をしてみた。

’09年から昨年までの10年間で行われた監督の途中交替は、J1、J2、J3あわせて93回。そのうち前任監督が指揮していたとき、チームが得ていた1試合あたりの勝点を、後任監督が上回ったケースが64回あった。割合にして68.8%となると、何だか非常に有効な手段に思える。

ただ、具体的な勝点で比較してみると、前任の監督が退任するまでに得ていた1試合あたりの勝点が平均1.11。これに対し、後任監督の勝点は平均1.31だった。1試合あたりプラスの勝点0.2。およそ18%のアップ率を、成功と見るのか、横這いの範疇と見るか。意見の分かれるところだろう。

 

2018シーズンは成功例が相次いだ。

 明らかな成功例もある。’09年の大分トリニータ、’13年の栃木SC、’15年の鹿島アントラーズなどだ。

後任を務めたランコ・ポポヴィッチ、松本育夫、石井正忠の各監督は、J1残留、昇格プレーオフ進出といった、それぞれのクラブの願望を達成できた・できないとは別に、1試合あたりの勝点で前任者を1点以上も上回る好成績をおさめてみせた。

興味深いのは、こうしたチームを大きく浮上させる監督交代が、昨シーズンに相次いだことだ。ガンバ大阪の宮本恒靖監督は、レヴィー・クルピ前監督時に17試合で勝点15だったところを、就任後17試合で勝点33をあげる、驚異的な回復ぶりをみせた。

残り5試合でバトンを渡された鳥栖の金明輝監督も、フィッカデンティ前監督時代の倍以上のペースで勝点を積み上げ、J2降格圏に沈んでいたチームを浮上させた。今年5月から監督を再要請されたのは、昨年の手腕があってのこと。

どちらの交代劇も、あらためて振り返るとJリーグ史に残ると言っても差し支えないくらい稀有なものだった。

原博実が監督だった頃の言葉。

 両者だけでなく、昨年はJ1、J2、J3で起きた17回の途中交代のうち、1試合あたりの勝点が前任者を上回ったケースが15回あった。

前述したように、過去10年のトータルで64/93回だったのが、昨年だけで15/17回なのだから、とても確率が高かった。

「記者の人たちはよく、途中から試合に出た選手が点を獲ったりすると、采配ズバリとか言うけどさ。そんなの分かんないんよ~。もしその交代をしていなかったら、ベンチに下げずにピッチに残しておいた選手が、2点獲っていたかもしれないんだからさ」

Jリーグの原博実副理事長がFC東京の監督だった当時、こう言ったことがあった。雑談の延長のような柔らかな口調だったものの、示唆に富んだ指摘だったため、強く印象に残っている。

つまり選手を交代するという決断と、交代しないという判断の、重みは等しいのだ。監督交代も同様で、交代することが目的になっていたのでは本末転倒だ。

昨年のような成功がたまたま重なったのではなく、低迷の原因の正しい把握、解決のための具体的な手段、後任の人選方法や最適なタイミング……など、チーム状況を好転させるためには何をすべきかを、各クラブが何度も痛い目に遭いながら学んできたことの表れだとしたら。

シーズン途中の監督交代は、今後ますます増えていくのかもしれない。

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