補強戦略に失敗、バランスを失ったG大阪 クルピの口癖となった3つのキーワード

3連敗スタートで18年ぶりの最下位転落

レヴィー・クルピ監督を新たに迎え、巻き返しを誓ったはずの新シーズンで、ガンバ大阪があえいでいる。

リーグ戦では第3節で川崎フロンターレに敗れ、降格した2012年以来となる3連敗スタート。18年ぶりの最下位転落というどん底にブラジル人指揮官も「開幕以降、これだけガンバらしさの出せない試合が続くとは想像していなかった」とこぼすありさまだ。

長期政権後に、新たな監督を迎えたチームが苦しむのは決して珍しいことではない。しかし、いまだ理想の布陣を見いだし切れていないG大阪は「産みの苦しみ」にさえたどり着いていないのが実情である。

元ブラジル代表のジョーを獲得した名古屋グランパス、鹿島アントラーズ、前年王者の川崎など今季のリーグ戦序盤は組み合わせにも恵まれなかったG大阪だが、チームの等身大の姿が浮き彫りになったのが川崎戦の3日前に行なわれたルヴァンカップのグループステージ、サンフレッチェ広島戦(0−4)だった。

まだ冷え込みが残るパナソニックスタジアム吹田でサポーターが目撃したのは実にショッキングな試合展開だ。

GKを含めた先発11人を完全ターンオーバーで挑んで来た広島を、現状のベストメンバーで迎え撃ったG大阪。グロインペイン症候群で出遅れていたアデミウソンが今季初先発を飾り、新旧6人の日本代表がピッチに立っていたにもかかわらず、前半だけで3失点。0−4で一方的に敗れた醜態に、クルピ体制では初となるブーイングがゴール裏のサポーターから飛んだのも無理もない話である。

低迷の要因は補強戦略の失敗

「今日の試合で唯一よかったのは大勢のサポーターの皆さんが駆け付け、最後まで応援し続けてくれたこと」とブラジル人指揮官は自虐的に試合を総括したが、低迷の一番の要因はフロントの見通しの甘さ、はっきりと言えば、補強戦略の失敗である。

 いびつなチーム構成は、開幕戦のスタメン構成に早くも見え隠れしていた。キャンプ中に右足首を痛めた今野泰幸を欠く中盤には高卒ルーキーとしてはクラブ史上初となる開幕戦スタメンに抜てきされた福田湧矢が名を連ねたが、その顔ぶれに新味はなかった。

元ブラジル代表のジョーを筆頭に、新戦力の外国人選手3人を獲得した名古屋や、昨シーズンの上位が積極的な補強を施しているにもかかわらず、昨シーズン10位に終わったG大阪が即戦力候補として獲得したのは菅沼駿哉と矢島慎也のみ。しかしながら、現状の菅沼はセンターバック(CB)の4番手でベンチにさえ入れず、時折キラリとしたセンスを見せている矢島も定位置確保にはほど遠い状態だ。

クルピが繰り返す3つのキーワードとは?

クルピ監督の苦悩は日々の囲み取材や、試合後の会見で頻出する3つのキーワードに集約されている。

「イデグチ(井手口陽介)」「コンチャン(今野)」「エキリーブリオ(ポルトガル語でバランス)」。

攻守の中心だった井手口陽介がチームの始動を前にした1月4日、イングランド2部のリーズ・ユナイテッドに完全移籍(現在はスペイン2部のクルトゥラル・レオネサに期限付き移籍中)。梶居勝志強化部長によると、クルピ監督も井手口抜きでチーム作りをすることを承知していたというが、守備でバランスを保てるボランチは始動の時点で今野のみ。今年1月に35歳を迎えた今野が早々に負傷離脱したことで、クルピ監督の試行錯誤が始まっていく。

「中盤のバランスをとるというところは今、一番の課題。それは昨年までいた井手口、けがでいない今野、彼らがいないことを考えれば、チームのベースがまだできていない」

ブラジル人指揮官の偽らざる本音である。

「ボランチは高校1年の国体でやったのみ。僕自身が一番驚いている」(福田)。トップ下が本職のルーキーを開幕直前にボランチに抜てきしたのも、実のところボランチの人材不足による苦肉の策にすぎなかった。

ハンドルを握る選手が不在のまま

「奪還」というチームスローガンに内包されるのはかつてG大阪の表看板だった攻撃サッカーの再構築である。「今季は自分たちでボールを握りながら、攻撃的に戦いたい」と遠藤保仁は、チームが目指す方向性を代弁する。しかしながら、開幕からチームが見せている戦いぶりはハンドル(ボランチ)を握る選手が不在のまま、闇雲にアクセルだけを踏むような「危険運転」状態に他ならない。

両サイドバックが高い位置を取るコンセプトをボランチやCBが臨機応変にカバーするのが今季のスタイルではあるが、「ボランチがいてほしいポジションや、戻るべき場所にいない」(東口順昭)と最後尾で孤軍奮闘する守護神もチームのウイークポイントをこう指摘する。

東口「チームにあった規律が今はない」

もっとも、開幕からの迷走は決して、脆弱だった補強だけによるものでは決してない。

過去2シーズンは無冠に終わったものの、5年間指揮を執った長谷川健太監督のもとで、チームのベースを支えたのは球際の強さと、攻守の切り替え。だからこそ、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が率いる日本代表にも数多くの選手を輩出して来たはずのG大阪だったが、かつてのストロングポイントまで捨て去っているのが実情である。

ルヴァンカップの広島戦後、守備陣の選手たちは次々にこんな本音を口にするのだ。「今までやってきた良い部分まで捨て去る必要はない。自由というコンセプトを悪い方向に受け止めてしまって、今までチームにあった規律が今はない」と東口が言えば、今季からゲームキャプテンを務める三浦弦太も「戦術がうまくいっていないのもあるが、ワンツーに付いていくとか、球際で負けないとか基本的なところで戦えていない」と似たような言葉を口にする。

2人の日本代表の不満を象徴するようなシーンが川崎戦でも顔をのぞかせた。1点を追う後半10分、敵陣深くでボールを失ったG大阪だが、攻撃参加していた藤春廣輝らの戻りは明らかに遅く、川崎のカウンターで2点目を献上。失点シーンは家長昭博にクロスをフリーで合わされたものだったが、川崎が高速カウンターを繰り出したわけでは決してない。

ボールロストした瞬間から失点までに擁したのは実に16秒。本来のG大阪であれば、十分に数的有利を作る余裕はあったはずだった。

戦力補強と今野の復帰で呪縛から開放されるか?

「現状を見ていると技術、戦術、そしてメンタル、全てにおいて本来あるべき姿から遠い。そして、それを取り戻していくというのも簡単なものではない」。クルピ監督は川崎戦後に苦しい胸の内を明かしたが、クラブも新戦力でのテコ入れに乗り出した。新たに獲得されたのはU−20ブラジル代表経験を持つ187センチの大型ボランチだ。復帰が間近な今野とマテウス・ジェズスで2ボランチを形成する方針のクルピ監督は、すっかり口癖になった3つのキーワードの呪縛から開放されるはずである。

14日のルヴァンカップでは浦和レッズに4−1で快勝。昨年9月以来続いていた負の流れにピリオドを打ち、18試合ぶりに公式戦の勝利を手にした。それでもブラジル人指揮官は改善点にやはり、「エキリーブリオ」という言葉を口にした。 絶対的な点取り屋の不在という懸案事項はいまだ手つかずのままではあるが、今野とマテウスがそろい踏みした時、大阪の名門は、遅まきながら真の「開幕」を迎えることになる。リンク元

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