クルピ・ガンバが迷い込んだ負の無限回廊。井手口移籍の余波と蘇る2012年の悪夢、不振脱却へ処方箋は?

ガンバ大阪が出口の見えないトンネルに迷い込んでいる。J1で唯一となる開幕3連敗を喫し、実に18年ぶりの単独最下位へ転落。昨年9月から続く公式戦における勝ち星なしは17試合に伸びた。敵地で川崎フロンターレと対峙した10日の明治安田生命J1リーグ第3節では、前半のシュート数が0本、90分トータルでも2本にとどまるなど、攻守両面で大きな差を見せつけられた。4年前には史上2チーム目となる国内三冠を達成した西の横綱が輝きを失った原因に迫った。

●「守れへんし、得点も取れない」(東口)

敵地・等々力陸上競技場のゴール裏まで駆けつけたサポーターたちから、容赦ないブーイングが浴びせられる。90分間を戦い終えたガンバ大阪の選手たちは、申し訳なさそうに頭を下げるしかなかった。

2012シーズン以来、クラブ史上2度目となる開幕3連敗。6年前はガタガタになったリズムを取り戻せないまま17位に終わり、クラブ史上初のJ2降格を味わった。

ただ、当時とはチームが直面する状況が明らかに異なる。2012シーズンはJ1最多の67得点をマークしながら、同じくワースト2位の65失点と守備が破綻したことが降格の最大の原因だった。

つまり、守備組織さえ建て直せば降格圏から浮上できる、という処方箋が存在した。最終的には具現化されることなく涙を呑んだものの、クラブが一丸となって取り組むべきテーマがあった。

翻って今季はどうか。名古屋グランパスとの明治安田生命J1リーグ開幕戦こそ2ゴールを奪ったものの、鹿島アントラーズとの第2節、メンバーをほとんど入れ替えることなく臨んだサンフレッチェ広島とのYBCルヴァンカップのグループリーグ初戦はともに完封負けを喫した。

迎えた今月10日の第3節。昨季のJ1覇者、川崎フロンターレに0‐2の完敗を喫したガンバは、2014シーズンの三冠独占を含めて、Jリーグの歴史上で2番目多い8個の国内タイトルを獲得してきたチームとは思えないほど、攻守両面でまったく歯車がかみ合っていなかった。

最後尾からフィールドプレーヤーが戦う姿を見つめ続けてきた守護神で、日本代表にも名前を連ねるGK東口順昭が試合後に漏らした第一声が、ガンバを蝕む病状の深刻さを物語っている。

「苦しいですね。守れへんし、得点も取れないので」

開始早々の8分に、セットプレーのこぼれ球をMFエドゥアルド・ネットに押し込まれた。エンドが変わった55分にはカウンターからMF阿部浩之があげたクロスを、MF家長昭博が利き足とは逆の右足でゴールネットに蹴り込んだ。

●新監督にも想定外の不振。蘇るのは6年前の惨劇

皮肉にもかつてガンバでプレーした2人による、絶妙のコンビネーションからとどめを刺された。それでも、東口は努めて前を向き、守備に関する明るい材料を探し求めた。

「1点目を失ったのが早かった点で痛かったけど、(味方同士の)距離感はルヴァンカップより明らかによくなった。2点目もカウンターやったし、完全に崩されたわけではないと思っているので」

重症なのは、得点の匂いをまったく感じさせない攻撃となる。放ったシュートはわずか2本。ともにペナルティエリア外からの一撃だったが、ゴールの枠をとらえられず、フロンターレの守備陣にほとんど脅威を与えることができなかった。

しかも、前半はシュート0本に終わっている。途中出場のMF泉澤仁が放った65分の1本目は、目の前にいたエドゥアルド・ネットにブロックされた。後半アディショナルタイムにFWアデミウソンが右足を振り抜いたが、ボールはクロスバーのはるか上に超えていった。

試合後の公式会見。今季から指揮を執る、ブライル人のレヴィー・クルピ監督は精彩を欠くチームにネガティブな言葉を漏らしては、それを打ち消すかのようにポジティブであろうとしていた。

「これだけガンバらしさを出せない試合が開幕から続くことは、正直言って想像していなかった。技術と戦術、そしてメンタルのすべてにおいて本来あるべき姿からは遠いし、取り戻していくのも簡単なことではない。責任はすべて監督である私にあるが、しっかりと前を向いて立て直していきたい」

いまも悪夢として脳裏に刻まれている2012シーズンとは、実は共通点がある。ガンバは2011シーズン限りで10年間に渡って指揮を執り、2005シーズンのJ1制覇を含めて、4つのタイトルをもたらした西野朗監督(現日本サッカー協会技術委員長)との契約延長を見送っている。

長期政権のもとでマンネリ感のなかに陥っていると判断した末の決断だったが、新監督として招へいしたはずの呂比須ワグナー氏(前アルビレックス新潟監督)が、Jリーグの監督を務めるのに必要なライセンスを取得していなかったことが判明する。

フロントは急きょジョゼ・カルロス・セホーン監督を招へい。呂比須氏をヘッドコーチに据えたが、実質的な二頭体制のもとでクラブ内は大混乱に陥り、開幕3連敗を喫した時点で首脳陣と山本浩靖強化本部長を解任する荒療治に打って出た。

●公式戦17試合勝ちなし。2012年と共通点が…

後任には松波正信コーチ(現ガンバ大阪アカデミースタッフ)がクラブOBでは初めて、なおかつクラブ史上における最年少で監督を務めたが、一度狂った歯車を元に戻すことはできなかった。

2011シーズンを振り返ればガンバは3位に食い込み、ACFチャンピオンズリーグ(ACL)出場権を獲得。最後の5試合を4勝1分けで終え、総得点78はJ1最多を叩き出していた。つまり、リーグ屈指の攻撃力はJ2へ降格することになる2012シーズンにも引き継がれていた。

ならば、昨季はどうか。フロントは9月7日に、J2を戦った2013シーズンから指揮を執ってきた長谷川健太監督(現FC東京監督)の退任を発表している。前半戦を4位で折り返しながら、直後の7試合で1勝1分け5敗と大失速し、優勝争いから脱落したなかでの決断だった。

J1に復帰した2014シーズンに国内三冠を独占し、2015シーズンにもガンバを天皇杯連覇へ導いた長谷川監督だったが、2016シーズンは一転して無冠に終わる。まず守備から入り、中盤の両サイドにはハードワーカーを配置する堅守速攻スタイルは、いつしかチーム内にマンネリ感をもたらしていた。

ガンバを立て直した長谷川監督の軌跡に敬意を表しながらも、クラブとして次のステップへ進む決断は尊重できる。しかし、退任の発表があまりにも早すぎた感は否めない。

優勝争いにも残留争いにも無縁。まさに中途半端な状態に置かれたガンバは、長谷川監督の退任発表後の9月9日に行われたヴィッセル神戸戦を1‐2で落としてから長く、暗いトンネルに迷い込む。

YBCルヴァンカップと天皇杯を含めた公式戦でまったく勝てない。新たな監督が誰になるのかもわからない状況で、選手たちにとってピッチで集中力を保つのは極めて困難な作業だったはずだ。

特に昨季の最後の3試合は、すべて無得点で終わっている。後半戦に限れば、ガンバは最下位だった。悪しき流れは関西のライバルチーム、セレッソ大阪を率いたクルピ監督に率いられたチームにも伝播し、公式戦では17試合連続で勝ち星から見放される惨状に陥っている。

●井手口移籍の余波。指揮官は若手を積極的に起用

クルピ監督の就任が決まった後に、ハリルジャパンでも主軸に定着した21歳の井手口陽介がイングランド2部のリーズ・ユナイテッドへ完全移籍。現在はラ・リーガ2部のクルトゥラル・レオネサに期限付き移籍している、中盤の若き将軍に代わる効果的な補強は残念ながら行われなかった。

フロンターレ戦後の会見で、クルピ監督は井手口と、故障で開幕戦から戦線離脱中のベテラン、MF今野泰幸の不在が攻守両面で精彩を欠く一因になっていると指摘した。

「最もバランスを欠いているのは中盤だ。井手口の移籍と、コンちゃん(今野)がいないこともあってバランスがまだ取れていない。本来あるべき攻撃力を出せていないのも、中盤のバランスの悪さからきていると思っている」

フロントがクルピ監督を招へいした理由は、香川真司(ボルシア・ドルトムント)や柿谷曜一朗、南野拓実(ザルツブルク)らを育て、横浜F・マリノスでくすぶっていた乾貴士(エイバル)を覚醒させた、セレッソ時代に発揮された育成力に期待を託したからだ。

ガンバの山内隆司代表取締役社長も、若手を育てながらタイトル奪還も目指す、という難しいミッションを与えているとフロンターレ戦後に明かしている。

「ハードルは高いと思いますが、やれると信じている、ということ。ファンやサポーターの方々に悲しい思いをさせているのは重々承知していますが、少し時間がかかるけれども辛抱するしかない。クラブと監督との信頼関係は揺るぎないものがある、まったく微動だにしないと言っていい」

65歳のブラジル人指揮官は実際、積極的に若手を起用している。ボランチの軸に指名されたのは、ユースから昇格して3年目の20歳・市丸瑞希だった。名古屋グランパスとの開幕戦では東福岡高校から加入した高卒ルーキーの福田湧矢、鹿島との第2節では浦和レッズから加入した24歳の矢島慎也とコンビを組ませた。

●新加入ボランチにかかる期待。暗いトンネルを抜ける道は…

フロンターレ戦ではそれまでトップ下で起用していた38歳の大黒柱・遠藤保仁をボランチに下げて、トップ下には23歳の井出遥也、中盤の右サイドには17歳のルーキー中村敬斗(三菱養和SCユース)を大抜擢している。しかし、名門がゆえに背負う、独特の重圧があると東口の目には映っている。

「ボールを回すにしてもちょっと自信がないというか、選手一人ひとりが生き生きしていない。やってやるぞ、という気持ちがいまのチームの雰囲気に飲まれてしまうところが一番あるんじゃないいかと」

2012シーズンと同じく第3節を終えた段階で、ガンバは動かなかった。クルピ体制が継続される未来に待つ成果を信じながら、セホーン体制に対する信頼が半ば崩壊していた6年前とは、状況がまったく異なると山内社長は言葉に力を込める。

「サッカーにおいて選手と監督の信頼関係は非常に重要だと思いますけど、クルピの練習やサッカーに対する考え方は、選手たちからも全幅の信頼を得ていると理解している。そこに賭けていきたい。井手口がいないことを前提にチームを作っているし、シーズンを通じての戦略もあると思うので」

フロンターレに完敗した10日には、サントスFCから期限付き移籍する20歳のマテウス・ジェズスが来日している。U-20ブラジル代表歴をもつ身長187センチ体重80キロの大型ボランチは、サントスFCで指導したクルピ監督が獲得を強く要望していた。

「今回補強したボランチの選手が、どれだけ早くチームに馴染むか。そこが肝になってくる。コンちゃんも戻ってくれば守備の部分はかなり堅くなるし、いろいろな組み合わせを試している攻撃の部分にもっと重心を移せる、と思っているので」

山内社長の言葉を借りれば、現状に対する最大の処方箋は、未知数な部分も多いマテウス・ジェズスの存在となる。3節を終えて唯一の白星なしとなり、2000シーズン以来、実に18年ぶりに最下位へ転落した苦境のなかで、トンネルの出口へとつながる光は残念ながら見えていない。

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