【ガンバ革新】高校2年生の大器、中村敬斗はなぜ浪速の雄を選んだのか

「実力があれば出れると思うんで、しっかりアピールしたい」

 強化サイドのお手柄である。ガンバ大阪は複数のJクラブとの競合を制し、超が付く逸材の獲得に漕ぎつけたのだ。

昨年のU-17ワールドカップで日本代表の主軸としてフル稼働し、グループリーグ初戦(ホンジュラス戦)でのハットトリックを含む4得点を奪取した本格派ストライカー、中村敬斗。三菱養和SCユースで研鑽を積んできた青年は、高校2年生の17歳にしてガンバとプロ契約を交わした。クラブにとって高校生との契約は、アカデミー出身者以外で初のケースとなる。

それだけの才覚の持ち主だ。間近で接すると、180センチ・70キロという公称サイズよりもずっと大きく感じ、迫力がある。圧倒的な技巧を誇り、水準以上の速さと強さを兼ね備え、この日のミニゲームでは先輩Jリーガーたちを尻目に冷静にゴールを決めるなど異彩を放った。ガンバで馴染みの関係者にその印象を訊くと、「間違いなく大物になる」「独特の雰囲気がある」「言動がもうプロのそれだよ」と、とても17歳に向けてのものとは思えないフレーズが並んだ。

中村はなぜ、ガンバを選んだのだろうか。シンプルにその質問からぶつけてみた。たしかにその回答は、想定していた高2のそれとはかけ離れた代物だった。

「もちろんガンバの熱意を感じたのはありますけど、最大の決め手になったのはクルピ(新監督)さんです。香川(真司)選手や清武(弘嗣)選手を育てた、すごくいい監督だと聞いていました。自分でもけっこう調べましたし、成功している方で、教われることがきっとたくさんある。なにより若手を積極的に使ってくれるだろうし、実力があれば試合に出れると思うんで、しっかりアピールしたい。監督がクルピさんに決まったというのが、やっぱり大きかったです」

新チームの始動は1月20日。それまでの1週間強、中村は他のルーキーや若手とともに合同自主トレに参加してきた。今季のガンバは昨季と異なり、基本的にレビー・クルピ新監督の下で保有選手全員がひとつのチームで活動する。トップチームとU-23チームの間に境界線は設けず、38名の大所帯で健全な競争の構図を維持していく。そうした変化も、中村のガンバでのチャレンジを後押しするだろう。

「当然ですけど、去年、練習参加させてもらった時とは雰囲気がぜんぜん違った。お客さま扱いじゃないので。自分で考えて、行動して、どれだけやれるのか。楽しみしかないです。いまは追い込んでるんでさすがに身体がきついですけど、ミニゲームは楽しんでやれました。これから対人とか本格的にやっていくと思うので、そこも楽しみにしています」

森山監督には「少しでも早くプロに行け」と

 U-17日本代表で師事した森山佳郎監督には、「少しでも早くプロに行け」とアドバイスされていたという。

「明確に高3になるまでにプロになりたい、と考えていたわけではないです。ただ森山監督に言ってもらったのもそうだし、高1の冬に初めてJクラブ(FC東京)の練習に参加した時から、自分としても『早くならなきゃいけない』と思うようになりました。僕はJクラブの選手じゃないから、2種登録でプロの試合に出れるわけじゃない。特別指定もありますけど、養和にはその考えがなかったので。“00ジャパン”のほかのみんながJ3とか出ていたりしたので、高3を待たずにプロになりたい、プロ契約しかないと思うようになりました」

なんともハキハキと、スラスラと言葉が出てくる。確固たるビジョンと将来設計があるからだろう。言うなればビッグマウスだが、まったく嫌みがない。聞いているこちらがスカッとするほど、言葉の一つひとつに強いメッセージが込められている。

合同自主トレを見守る宮本恒靖U-23監督についての印象を尋ねると、「基本クールなんですけど、昨日とか居残り練習でパスを出してくれたり、細かい指導をしてもらったりして、本当にありがたいです」と語った。現在は生まれ育った関東エリアから初めてひとり飛び出し、寮生活を送っている。「大阪の風土はどうなの?」と質問すると、さすがに意表を突かれたのか、「いやー、どうかな。楽しい。こっちのほうがご飯はおいしい気がしますね」と少しはにかみ、白い歯を見せた。

今季のガンバの前線は、アデミウソン、ファン・ウィジョ、長沢駿、高木彰人、一美和成など多士済々。その熾烈な生存競争のなかで、中村はどう振る舞うのか。一方、それなりに軸足を置くだろうU-23でのJ3では、何点を叩き込むのか。そしてひとつ年下でライバルの久保建英(FC東京)と、どちらが先にJ1で初ゴールを決めるのか──。

シーズンを通して興味が尽きない、ビッグタレントである。

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