ロナウジーニョを干した男・クルピ。就任濃厚ガンバで遠藤をどう扱うか。

奇跡の残留を信じるアルビレックス新潟のサポーターがアウェイの地で歓喜に湧いた一戦は、ガンバ大阪の現状を象徴するような一戦だった。

16試合勝利から遠ざかっているアルビレックス新潟に0-1で敗れたのはサプライズでもなんでもない。東口順昭が古巣相手にビッグセーブを連発していなければ、大量失点の可能性さえあったほど、ガンバ大阪は最下位のチームに猛攻を許した。倉田秋を出場停止で欠いていたものの、新旧の日本代表と韓国代表2人を擁するタレント集団は一瞬の隙を突かれたわけでもなく、新潟にゲームを支配され続けた。

「やっていてもあまり楽しくないというか……。今は全然パスコースも少ないし、皆ボールを出して、止まってしまっている」と井手口陽介がこぼせば、藤春廣輝も「ずっと相手のペースだったし、僕らがボールを持てなかった」と話した。

「ファンの要求に応えられるようなチーム作りを」

 歌を忘れたカナリア、ではあるまいが、かつてその攻撃サッカーでJリーグを席巻した大阪の雄には「攻めダルマ」だった当時の記憶はもはや、ない。

5年間の長谷川体制にピリオドを打ち、来季からは新体制でのリスタートを目指すガンバ大阪。クラブが目指す方向性は、長谷川健太監督の退任が発表された翌日、梶居勝志強化部長が口にした言葉の中に見え隠れする。

「攻撃サッカーも大事だし、ファン、サポーターの方からガンバに対する要求は、毎年高くなっている。その要求に応えられるようなチーム作りをするためにそういう人材を選びたい」

クラブ史上初のJ2降格を強いられた2012年の途中に、強化本部長(当時)に昇格した梶居強化部長は「監督選びは本当に大事」ということをその身で知る男だ。そんな強化部門のトップがあえて、長谷川体制にピリオドを打つことを決断したのは、攻撃サッカーの再構築を目指すがゆえである。

明確だった長谷川監督の「勝ってタイトルを取る」。

 第一次黄金時代を築いた西野朗元監督のもとでガンバ大阪は“魅せながら、勝つ”という贅沢かつ、難解なテーマを常に追求し続けた。記憶はややもすると美化されがちだが「私以外の監督ならもっと多くのタイトルを取っていたのかもしれない」と西野元監督が退任時に認めたように、理想に殉じるがあまり、落としたタイトルも決して少なくはなかったのは確かである。

一方、長谷川監督は対照的な現実主義者である。

「ガンバの監督は娯楽性と結果を求められる難しさがありますが」と長谷川監督に一度、問うてみたことがある。

指揮官から返って来た答えは、実にシンプルかつ明解。「勝ってタイトルを取る。それが一番大事でしょ」だった。

チームに欠けていた守備の意識を植え付け、就任以来、三冠を含む4つのビッグタイトルをもたらした長谷川監督から「卒業」し、今後は攻撃サッカーの再構築を目指すことになる。しかし、クラブは2012年以来となる重大な岐路に立たされていると言っても過言ではない。

クルピ氏に待ち受けるのは更地からの新築作り。

 かつてセレッソ大阪で指揮を執ったレヴィー・クルピ氏の監督就任が濃厚だが、攻撃サッカーの再構築は、決して容易い命題ではないのだ。

家作りに例えよう。長谷川監督が就任した2013年は、攻撃サッカーと遠藤保仁という大黒柱がありながらも傾いた家のリフォームだけで良かったが、クルピ氏を待つのはいわば、更地からの新築作りである。

梶居強化部長が当初からクルピ氏に白羽の矢を立てていたのは「攻撃的なサッカーを志向し、若手の起用法にも長けているから」である。

新旧の日本代表や東京五輪世代となる初瀬亮、市丸瑞希、更にはガンバ大阪U-23で定位置を獲得したガンバ大阪ユースの芝本蓮ら、数々のタレントを擁するチームをクルピ氏に託すのは、決して間違いではない人選だ。

ただ、レヴィー・クルピという名将は、無条件に攻撃サッカーを生み出す打ち出の小槌ではないことをクラブは知るべきであろう。

タレント不足のサントスでは手堅いサッカーだった。

 2014年に刊行した自著『伸ばす力』の中でクルピ氏はこう記している。

〈私は、基本的には選手の特徴を見て戦い方を決めるタイプの監督だ〉

その言葉に嘘はない。

10月28日、ブラジル全国選手権で3位という好成績だったにも関わらず、クルピ氏は解任の憂き目を見た。6月の就任以来、当時10位だったチームを立て直し、一時は2位浮上。在籍時には公式戦31試合で14勝12分け5敗という好成績だったにもかかわらず、サントスが解任に踏み切ったのは、そのスタイルも一因だった。

解任時はリーグで2番目に少ない失点を誇り、堅守速攻で結果を出して来たクルピ氏のサッカーが、攻撃的なサッカーを望むサンチスタ(サントスサポーター)には不評だったのだ。サッカー王国では「攻撃的なチームを作り上げる」と評される名将、クルピ氏だが今季のサントスはタレント不足。手堅いサッカーでチームを立て直したのは、クルピ氏のリアリズムゆえだった。

「チームの駒を新しい監督に与え、我々が目指すものをもう一度明確にしてスタートさせたい」と梶居強化部長は来季に向けての指針を口にしたが、クラブは財政面でも、決して楽な状態に置かれていない。

とはいえ今季も三浦弦太やファビオ、泉澤仁ら新戦力で的確なテコ入れを行なって来た。いかなる指揮官を招こうとも確固たるフィニッシャーの獲得なしに、来季の復権はおぼつかないはずだ。

今の遠藤は絶対的な存在ではなくなっている。

 「ダ・ゾーンマネー」と呼ばれる理念強化配分金を逃すのが濃厚で、財政的にも決して余裕があるとは言えないガンバ大阪。クルピ氏を待つもう1つの難題は、遠藤保仁というパズルのピースの扱いである。

三冠に貢献し、JリーグMVPを獲得した2014年には「サッカーは年齢じゃないことをこれからも証明し続けたい」と言い切った遠藤だが、もはやチーム内では絶対的な存在ではなくなっていることも事実である。

ボランチとして求められる最低限の守備力に疑問符がつき、かつての遠藤であればあり得なかったイージーミスも頻発した。遠藤の実績をリスペクトするがゆえに遠藤の起用法に試行錯誤し続けた2シーズン、ついに理想の布陣を見いだせなかったガンバ大阪が無冠に終わったのは、言わば必然でもあった。

ロナウジーニョを干したクルピ氏がどんな対応を?

 アトレチコ・ミネイロを率いた当時、練習態度に問題があったロナウジーニョを干し、チーム構想から外したクルピ氏だが、ガンバ大阪のレジェンドの扱いに苦慮するようだと、長谷川監督と同じ轍を踏むことになるだろう。

「ボールをつなぐサッカーをやれる面子は今もチームにいる」

長年、満足なオフもなく過密日程の中で稼動して来た遠藤にとっても、38歳で迎える来季は正念場となるのは間違いない。

「今の成績は、監督だけの責任ではないし、我々もフロントも大いに反省しないといけないところもある」と自らを戒めた梶居強化部長。「1年目から結果を求める」と言い切る以上、言い訳が入り込む余地がない戦力を提供するのが真のビッグクラブのあり方だ。

新監督の選定は、単なるスタートラインである。今、問われるのは、ガンバ大阪のフロント力とその矜持――。サッカー監督は決して、マジシャンではないのだから。

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