倉田、今野、井手口が光った10分間。ガンバ3人衆は代表の中盤を変える?

シリア戦、唯一の得点は今野泰幸のゴールだった。

後半13分のことだが、この時間帯の中盤はなかなか面白い構成になっていた。

アンカーに井手口陽介、右インサイドハーフに今野、左インサイドハーフに倉田秋がおり、ガンバ大阪のトリオが中盤を占拠していたのである。

前半、日本代表は全体的に間延びし、選手間の距離が遠く、攻撃がほとんど機能していなかった。ところが後半8分、井手口が入ると雰囲気が変わった。「相手を厳しくチェックするように」とハリルホジッチ監督に指示された井手口はボールホルダーにアグレッシブにアプローチし、前後左右に動き回った。それにつられるように全体の動きが少しずつよくなり、今野の得点シーンにつながった。

同点ゴール自体も、ガンバ勢が絡んでいた。

左サイド深い位置をえぐった長友佑都は最初、倉田にパスを出そうとした。だが倉田が相手GKとDFをひきつけたことで、今野がフリーになったのが見えた。そこにうまくボールを出し、今野のゴールが生まれたのだが、長友は「あれは相手DFをひきつけてくれた倉田のおかげ」と自己犠牲を払った倉田のプレーを称賛した。

「いつもやっているので、お互いが分かるし楽しい」

 「いつもやっているメンバーなのでお互いのことが分かるし、気を使わないでプレーできるのはいい。やっていて楽しかった」

倉田は、代表で3人が同時にプレーするメリットをそう語った。

代表チームは様々なクラブ、異なるサッカー観を持った選手の集合体である。それだけに同じクラブの選手が3人も同時にプレーすることは稀だ。

攻撃のコンビネーションは普段からプレーしている分、ほとんど神経を使わず阿吽の呼吸でプレーできる。守備でもアプローチとカバーがスムーズにできるし、連動して相手を潰すことができる。何よりもいつもの顔がそこにあるのでメンタル的にも安心感が生まれ、落ち着いてプレーできる。

3人が同時にプレーしたのはわずか10分間だけ。

 井手口がピッチに入った瞬間からトップギアで走り回り、いい形でボールを奪えていたのは、ハリルホジッチ監督に尻を叩かれたのもあるが、そういう環境でプレーに入れたことが大きいだろう。

しかも3人が一緒にプレーしていたのは10分間だけ。この短い時間でゴールが生まれているのは単なる偶然ではない。

それだけに、この“ガンバユニット”をもう少し見たかった。

というのも彼らは、チームの縦に速く攻めるというチームのやり方に異なるエッセンスをもたらしてくれると思ったからだ。

井手口も倉田もまだ代表の常連ではないし、今野は監督の指示をしっかり守るタイプ。実際、今野はシリア戦でも従来のコンセプト通り奪ったら速く前にボールを出すプレーをしていた。それぞれが置かれた状況や性格を考えると、監督の考えと異なるプレーを意識的にするのは難しいかもしれない。

ガンバ伝統のパス回しを代表でも発揮していい。

 だが、彼らだからできることもある。

たとえば、中盤でもっとボールを回してもいい。

それはハリルホジッチ監督お好みのプレーではないかもしれない。ただ全体の動きが緩慢だったり、流れが悪い時は強引に縦に入れても後ろが連動せず、前線が孤立してうまく攻撃につながらなくなってしまうシーンはこれまでも課題となっていた。

シリア戦の前半は、まさにその形になっていた。その状況こそ無理せずボールをゆっくり回して、自分たちのリズムを取り戻していくことが必要になる。

ガンバユニットは、それが得意なはずである。

伝統的にガンバの選手はボール回しがうまい。そこには個々の技術の高さがベースにあるが、同時にクラブの伝統として攻撃的なパスサッカーを標榜しているからでもある。彼らは普段からパススピードを高め、パスの精度を磨いてきた。

例えば、かつて明神智和が柏レイソルからガンバに移籍してきた時のことだ。パス回しの精度とスピードに驚き、その流れに乗るようになれるまで3カ月かかったが、それほどチームとしてパスを回して攻めることにこだわりを持っている。

さらに言えば技術の天才である遠藤保仁がチームにいることも大きい。彼から直接、色々なことを学べるのだ。

「代表ではどんな選手とでもやれるように……」

 ボールを回して揺さぶりつつ、縦パスで攻撃のスイッチを入れる。いつもガンバでやっているようなプレーを代表でも見せられれば戦術的にも広がりが出て、相手を追い詰める武器になる。

彼らが1分間でも長くプレーし、さらに得点を決めて勝利していれば、指揮官にその効果を見せることができただろう。今後、彼らが結果を積み重ねていけば、ポゼッションも併用した深みのあるサッカーが実現可能になるかもしれない。

迎えるイラク戦、3人が一緒にピッチに立てる可能性はそれほど高くはないだろう。

「3人が一緒に出るのは楽しかったけど、代表ではどんな選手とでもやれるようにならないとあかんと思う」

倉田の言葉はごもっともだ。

ただ、だからこそガンバユニットが揃ったタイミングが訪れたときこそ、常連のメンバーとの違いを見せてほしい。3人を軸としたパスワークでリズムを作れば、周囲にも上手い選手がいるので、より面白い崩しができる。そうして結果を出してガンバユニットがチームの新たなオプションになれば、チームはより強みを増していくはずだ。

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