ベンチ温める日々に何を思う。G大阪・丹羽大輝、独特のメンタル構造【The Turning Point】

前後編にわたってお送りした丹羽大輝(ガンバ大阪)のインタビュー。今季、丹羽を待ち受けていたのは思いもしなかっただろう苦境だった。雌伏の時を過ごし、反撃に転じる機会を虎視眈々とうかがっているに違いない。(取材・文:海江田哲朗)

●「悪い意味の慣れは絶対に良くない」(丹羽大輝)

新宿・花園神社の裏手にある、株式会社よしもとクリエイティブ・エージェンシーの東京本部。テレビでおなじみの旧小学校の校舎を再利用した建物である。丹羽大輝はよしもととマネジメント契約を結び、昨年オフの東京滞在中、ここで時間を取ってもらった。

丹羽は自身の半生を振り返り、快活に話した。暖気運転など無用とばかりに、開始からフルスロットルだ。

ガンバ大阪ユースからトップに昇格し、3年間まったく試合に出られなかった――。

「悪い意味の慣れは絶対に良くない。くそっと思えなくなっていた自分に気づいたとき、このままではヤバい。最初に電流を流されたときの自分に戻らなあかん。そう思った」

2011シーズン、アビスパ福岡では惨敗の山を築き、J2に降格した――。

「自分が最大限の努力をして起こったことは確実にプラスになる。僕の場合は、アプローチをやり切った自負があるから、結果が出なかったとしても選択に後悔はない」

どんな球を投げても、丹羽はスパンッと打ち返してきた。

「毎年、毎月、毎日がターニングポイント」

「疲れないですよ。だいたい、疲れるというのは誰が決めたのか」

「眠くなったら寝て、起きたいときに起きる。それが僕の適正睡眠時間」

細長の会議室で小気味良い言葉は跳ね、ぽんぽん弾む。空気が大きくスウィングする。その場はすっかり丹羽に支配された。そして、やや困惑気味のこちらの顔を見て、丹羽はいたずらっぽく笑った。話の流れに乗った責任を引き受け、即興の絵まで描いた。サービス精神が旺盛なのだ。

●限られた出場機会にどんな面持ちでいるのか

人好きする快男児。行動規範は「個」で首尾一貫している。そこが清々しい。集団に属していようがいまいが、局面を切り拓けるのは「個」で動ける人間だ。ただ、「個」として強くあることは、時として「弧」になることもあるだろう。それを丹羽はチラリとも匂わせず、淡々と受け入れているように見えた。

今季、丹羽はベンチを温める日々が続いている。唯一の先発出場は第6節のサンフレッチェ広島戦のみ。このときは3バックの右に入った。5月14日、第11節の北海道コンサドーレ札幌戦、前後半1点ずつ加えたG大阪が2‐0とリード。5分と表示された後半アディショナルタイム、背番号5がタッチライン際に立つ。4分44秒、遠藤保仁と交代し、丹羽はピッチを踏んだ。5分21秒、レフェリーの笛が鳴る。1分も経たないうちに試合終了だ。ボールに触ることすらなかった。

カメラは丹羽の顔を映さない。私は、ロッカールームに引き上げ、帰り支度をする彼がどんな面持ちでいるかを想像する。さすがの丹羽も眉根を寄せて渋い顔か。いや、持ち前の特殊なメンタルの構造で消化し、まったく違う発想を持っているかもしれない。そう思わせるところがある。

「ああ、おれってこんな選手やったな。こういう楽しみ方を知ってたな。子どもの頃の感覚が甦ってくる。いまは心躍るような気持ちでサッカーができています。どうしようもなく躍っちゃってるんですよ」

祖父から「一族代々の系譜には、豊臣家の重臣だった丹羽長秀がいる。おまえはその末裔だ」と聞かされて育った丹羽。躍る心をなだめすかし、ギリリッと目一杯まで弓を引き絞っている姿が浮かぶ。

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