ガンバ社長に訊きました「どれくらいビッグなクラブになれそうですか?」

サッカー界ではいわゆる門外漢。

 前任の野呂輝久氏の後を受け、ガンバ大阪の新社長に就任したのがちょうど1年前。パナソニックの営業畑で辣腕を振るってきただけあって、熱量とバイタリティーがこれまでの歴代トップとはやや異なる。

とはいえ、サッカー界ではいわゆる門外漢だ。山内隆司社長にとっては、目に入ってくるもの、聞こえてくるものすべてが新鮮だった。

「新しいスタジアムの立ち上げと同時で、とにかく一生懸命、取り組んできました。これまで経験したことがないスポーツエンターテインメントのところで、正直戸惑いを感じながらも、スタッフがよくサポートしてくれましたね。なんとか無事に1年が終わった」

ガンバにとって過去最大のプロジェクトであった新スタジアム建設が完了し、いまや日本国内外に誇る良質な“器”を手に入れた。クラブとしては2005年のJ1優勝で初めてタイトルを獲得。以降の12年間で、アジア制覇など計9つの星をユニホームの胸に刻んだ(J2優勝は除く)。この数値は鹿島アントラーズに次ぐもので、いまや押しも押されもしない国内屈指の名門である。

すでに器と格は手にした。4月に還暦を迎えたばかりの山内社長は、はたしてここからガンバをどのように進化させようとしているのか。

「まず私がやるべきは、そのための道筋作り。しっかりとした中・長期的な計画を夏までには立てたいと考えてます。右肩上がりの絵は、書くだけなら簡単なんです。でも一般企業の事業計画とは当然違うわけで、チームの成績などギャランティされてない要素が多いですから難しい。じっくり練り込みます」

新スタジアムの集客は、2016年の第1ステージが2万6378人、第2ステージが2万4176人、そして今季の8節終了時点では2万1381人とややジリ貧だ。クラブはプロジェクションマッピングを駆使したショーアップや、観客から不満が出ていた再入場の禁止を解除するなど適宜対応をしているが、こけら落としから1年で減少傾向に転じているのは、やはり気になるところ。その点についてはどう捉えているのだろうか。

「魅力あるチーム作りですね。チームが強くなって、ホームでは負けない不敗神話や、つねに日本一を狙えるようなチーム作りが第一だと考えてます。(集客数が)上がり続けるのは端から難しいわけで、こうして下がってきたときこそが大事。サッカーの聖地にするという覚悟を持ってますが、さらにもっと意識を高めないといけない」

今オフには、FWアデミウソンをサンパウロから完全移籍で買い上げ、DFファビオ(横浜F・マリノスから)やDF三浦弦太(清水エスパルスから)など即戦力を多く獲得した。一線級のターゲットマン確保は持ち越し課題ながら、山内社長は「それまでの身の丈にあった強化費用のねん出だったところから、先行投資が必要だと考えてチャレンジしました」と語り、「ハイリスクですが、(ダゾーンの参入によって)Jリーグのビジネスルールが180度変わって、弱肉強食になってきた。そこに挑戦しないとサポーターも喜ばないし、引いては大きなリターンも期待できない。2年目の新米社長としてはかなりドキドキものですが」と、苦笑いを浮かべた。

「ただ、そういう判断も、1年やったからこそです。このスタジアムを維持して収益を上げるには、やはりJ2では持たない。J1にいるのが当たり前のなかで、かつ優勝を狙えるチームじゃないと回せない。そういう意味においてのプレッシャーは去年よりもはるかに高いですよ。パナソニックは独立経営を求めてる。そこに甘さはない。でも私は、それでいいと思ってます。本当に苦しんで成し遂げるからこそ足腰が鍛えられる。それが私の使命。責任の取り方を明確にして、有言実行でやりたいと考えてます」

いずれはアカデミー全体でも収益を。

 正直、上手く機能していると言い難いのが、U-23チームの運用だ。

J3をベテランや怪我明けの選手の調整の場として使うのではなく、純粋に20歳前後の若手に実戦経験を積ませたい。その基本スタンスを徹底すべく、今季はトップチームと完全に切り離して活動させている。

とはいえ、もともと全体の保有選手数が少ないこともあり、ユースの選手を大量に組み込まなくてはメンバー構成ができなくなっている。開幕5連敗を喫した宮本恒靖監督だが、厳しい台所事情なのは確かなのだ。

このU-23の存在意義、さらにはガンバの伝統であるアカデミー育成についてはどんなビジョンを持っているのか。

「強化費がもっとあれば、U-23も充実させられるでしょう。伸び盛りな20歳前後の選手をたくさん集めて、数年後のトップ強化につなげる。それが理想です。ただ、即座に結果は得られない。1年目の昨シーズンの反省を受けて、まずはトップとU-23を分けました。そのなかでトップを優先すると、層が薄くなってしまうのはご指摘の通り。ふたつのチームを持ってる意味をあらためてよく考え、改善していきたい。そのためにも強化できるだけの経営力を身に付けるのが大事で、いずれはU-23だけでも稼げる状況を、もっと言えばアカデミー全体で収益を見込める戦略を立てていきます。これまではずっとマイナスを出してきた分野ですが、何年後かには黒字にしたい」

ユース改革にも着手した。隆盛を誇っていた10年前に比べて、昨今はセレッソ大阪やヴィッセル神戸、京都サンガのアカデミーに関西圏の逸材を奪われがちだ。

クラブは今年から新1年生に対しては、提携する通信制の高校に通わせ、よりサッカーに没頭できる環境を提供。「社会人としての常識を教えたり、英語など学業のところで足りない部分はここ(クラブハウス)でも補えるようにした」(山内社長)とし、来年3月にはスタジアムに隣接した場所に、新築のユース専用・選手寮が完成する。

現在、Jリーグと複数のJクラブはベトナムやタイをはじめとする東南アジアを新たなビジネスチャンスの場と捉え、さまざまな業務展開を模索している。ガンバも積極性を示してはいるが、印象としてはまだまだだろうか。

「もちろんいますぐではなく、プライオリティは高くない。ただ、並行してさまざまなアクションを起こしていかないと立ち遅れます。例えばガンバはACLにコンスタントに出ており、アジアでのネームバリューがある。そこを活用してアジアからスタジアムにひとを呼び込めないかと、大阪観光局と話したりしています。あるいはベトナムのクラブとの提携、インドネシアでのプレシーズンマッチ開催などを企画したり、現地でのサッカースクールの展開もプランのひとつ。まずは国内の地盤をしっかり固めるのが先決ですが、いろいろと考えてはいますよ」

OB会、ネーミングライツ、そして不適切フラッグ問題…。

 ここ数年、数多くのOBが帰還を果たしているのも特徴的だ。

U-23のスタッフは宮本監督を山口智、松代直樹の両氏がコーチとして支え、ユースは實好礼忠監督、トップのアシスタントコーチには児玉新氏が抜擢された。下部組織の指導者だけではない。今年から中山悟志氏、中澤聡太氏、青木良太氏らが強化スタッフとして採用され、根っからのガンバファンを喜ばせている。山内社長は「そこはもっと進めていきたい」と話す。

「ガンバのサッカーを継承し強化するうえでは、非常に素晴らしい取り組みだと思います。じつは最近、OBのみなさんからOB会を作りたいという申し出を受けたんです。是非やりましょう、組織化しましょうと。OB会のイベントをガンバとしてもサポートする。OB会がしっかり整備されれば、記念試合や引退試合などもスムーズに開催できますし、ガンバとしてもひとつのブランド力向上につながる。大きなファミリーとしての一体感ですね。現役選手のモチベーションにもかかわっていくでしょう。だからすごく期待してます」

スタジアムのネーミングライツにまつわる動きも加速してきた。

所有元の吹田市はすでに市民に対してその是非に関する意見を募っており、5月には議会に提出されるという。収入の大半は吹田市が得るが、もちろんスタジアムの指定管理者であるガンバにも幾分かはフィードバックされる。山内社長は「一般公募されて、入札制になるでしょう。どれくらいのものになるのか興味深いですね。ここではJ1もJ3も開催され、ACLや日本代表ゲームもある。価値は高いと思うんですよね」と頬を緩ませる。

先の大阪ダービーでは、3年ぶりのヤンマースタジアム長居が満員札止めとなり、豪壮な雰囲気に包まれた。社長にも心中期するところがあったようだ。

「大阪ダービーは、集客という意味では本当に意義深いエンターテインメント。うちのホームゲームは7月29日(第19節)。いっぱいにしないといけませんね。負けられないですよ」

パナソニックの技術が散りばめられた吹田スタジアム。最後は社長らしくその魅力をアピールして、インタビューを締めた。

「サッカーを見て楽しむという意味では日本屈指。どこから見てもすごく近いですし、きっとまた訪れたくなる場所だと思うんです。そこに加えて、音と光の演出。いま、世界的にスタジアムのスマート化の流れがきている。パナソニックのノウハウを活かして、さまざまな試みを仕掛けていきたい。ひとつのショーケースとしていち早く我々が導入して、それがいろんなスタジアムに展開されていけばいいですね。安全、快適、楽しい。是非足を運んでいただきたい」

この取材の数時間後だった。ガンバのサポーターグループによる不適切フラッグ問題が急転直下の展開を見せ、瞬く間にネット上で大騒動となったのだ。ナチス親衛隊の政治的思想を連想させるマークが使用され、国内外で波紋を広げている。

山内社長は事態の収束を図るべく奔走し、翌日には謝罪と状況報告の会見を行なった。素早い対応だったと感じるが、トップとしての真価が問われるのはこれからだ。ガンバのサポーターをはじめサッカーファンの信頼を回復するとともに、なにかしらのペナルティを課すであろうJリーグとの折衝にも臨まなければならない。

理想と現実の狭間で奮闘する情熱家は、この苦境をも乗り越えて、ガンバ大阪に新たなステータスを与えられるのか。そのお手並みに注目が集まる。

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